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行列式の展開と逆行列・クラメルの公式

2022-10-22

おさらい

本題に入る前に、余因子と行列式の展開についておさらいしておきます。

余因子

次の正方行列 から第 行と第 行を取り除いてできる行列の行列式に を掛けたものを 余因子といい、 という記号であらわします。

これを示すと、次のようになります。


行列式の展開

前回までに説明したように、行列式の計算では、列に注目して次数が1つ低い行列式と関連させる方法と、行に注目して次数が1つ低い行列式と関連させる方法があり、そのような計算法は行列式の展開と呼ばれるのでした。

列による展開とその関連

定理

列による展開

次の行列式 の第 列を利用して、

と変形することができます。先に導入した余因子の記号 を使いたければこの式は

と書くことができます。

上の定理で の列番号(つまり後ろの添字)が異なっている時にどうなるのかを述べたのが次の定理です。

定理

ならば 次行列 の余因子 に対して、

が成り立ちます。

行による展開とその関連

定理

行による展開 次の行列式 の第 行を利用して、

と変形することができます。先に導入した余因子の記号 を使いたければこの式は

と書くことができます。

上の定理で の行番号(つまり前の添字)が異なっている時にどうなるのかを述べたのが次の定理です。

定理

ならば 次行列 の余因子 に対して、

が成り立ちます。

余因子行列

それでは本題に入ることにします。

まず、 式をあらためて見てみましょう。念の為再び下に書いておきますが、

次行列 の余因子 に対して、

ならば 次行列 の余因子 に対して、

が成り立っているわけです。

これらの式の右辺は、どことなく、行列の積を作るときの計算と似ています。そのあたりのことを調べるために、まず、次のように左辺と右辺を入れ替えて見やすくしておきます。


式の左辺をよく見ると、 の添字 の順番が逆ならば、これは行列の積で各成分を計算する時と同じ計算の仕方です。だとしたら、 の添字 の順番を逆にして並べた行列を考えることにすれば、これらの式は行列の積をあらわしていると思えることになりますね。

そこで、次のような行列 を考えることにします。

この は、 の余因子 たちを、行と列の番号を逆にして並べてできる行列で、余因子行列と呼ばれます。

余因子行列を使うと、 式は次の定理のようにまとめることができます。

定理

正方行列 と、その余因子行列 に対して、

が成り立ちます。これは、成分を明示して書くと、

が成り立っているということです。

式から出発して上と同様の議論をすれば、次の定理を得ることができます。

定理

正方行列 と、その余因子行列 に対して、 が成り立ちます。これは、成分を明示して書くと、

が成り立っているということです。

行列式による正則性の判定と逆行列の公式

まず、いくつかの大事な言葉の定義を思い出しておきましょう。

正方行列 が正則であるとは、 に逆行列があるという意味で、 に逆行列があるというのは、 かつ が成り立つ正方行列 が存在しているという意味でした。

また、一般に2つの正方行列 に対して、 が成り立つのでした。

言葉の定義を思いだしたところで、行列の正則性、逆行列の存在、逆行列の計算の仕方に関して述べることにします。

定理

正方行列 について以下のことが成り立ちます。

  1. が正則ならば、 です。
  2. ならば は正則です。
  3. に逆行列 があれば、 が成り立ちます。(これは逆行列の公式を与えます。)

証明

  1. が正則ならば、 が成り立つ 正方行列 が存在します。 この に対して、 が成り立ちます。 を掛けて にならない( になる)のですから、 となることはありません。
  2. おさらいと余因子行列の説明を通じて、正方行列 と、その余因子行列 に対して、

    が成り立つことを見てきました。ところで、 ならば、すべての辺を でわることができて、

    となります。これより には、逆行列 が存在しているということになるので は正則です。
  3. 2.の証明から明らかです。
    (証明終わり)

クラメルの公式

先の定理を利用すると、連立一次方程式の解の公式をつくることができます。 詳しく言うと、未知数と式の数が等しく、さらに係数行列の行列式が ではない場合の公式です。

はすべて定数とし、次のような、未知数が で式の数が 個の連立一次方程式を考えます。

ここで、

とおけばこの連立一次方程式は、

とあらわすことができます。

先の定理より、 のとき、 (ただしここで の余因子行列)ですからこの式の両辺に を左から掛ると、

となります。

この 式はすでに解を求める公式になっているわけですが、 を使いこの式をもう少し詳しく分析してみましょう。

として定義されるものですから、 は、

となります。

この式をよく見ると、右辺の の中の各成分は行列式の展開とよく似た形をしていることがわかります。

たとえば第 成分 を見てみましょう。 この和の中の、 からそれぞれ第 行と第 列を取り除いてできる行列の行列式に符号 をつけたものです。 しかし、第 列は取り除かれてなくなるのですから、そこに何が並んでいても同じことです。 ですから、各 に対して、

と考えて良いことになります。

つまり に対して、

となるわけです。

それどころか、 の第 列での展開を思い浮かべてみれば、

となっていることがわかります。

ですから 式の の中の第 成分は、 とあらわすことができるわけです。

ここまで 式の の中の第 成分について考えてきましたが、その他の成分についても同様に考えれば、

に対して、

となることがわかります。

以上で次の定理が証明されたことになります。

定理

連立一次方程式
の係数行列 の行列式 でなければこの連立一次方程式はただ一組の解をもち、その解は、 それぞれ に対して、

で与えられます。これはクラメルの公式と呼ばれています。

補足:逆行列の公式やクラメルの公式はあまり実用的であるとは言えません。 主にこれらの公式が役に立つのは、理論的な議論をする場合や、係数が規則的になっている場合などです。 基本変形を使って逆行列を求めたり、連立一次方程式を解く方法のほうが実用的であると言えるでしょう。

まとめ

行列式の展開などを用いると…

行列の正則性を行列式で判定できることがわかります。

逆行列をあらわす公式を作ることができます。

連立一次方程式の解をあらわす公式を作ることができます。

行列式の計算例 行列の階数と小行列式