線形写像と行列の階数
2023-04-08
2つの線形空間 \(U,V\) および \(U\) から \(V\) への線形写像 \(f\) があるとします。\(U\) と \(V\) の基底をそれぞれ選ぶことにより、\(f\) に対応する行列が定まり、これは \(f\) の表現行列と呼ばれました。
ところで、行列の基本変形を使って行列を標準形と呼ばれるものに変形すると、行列の階数と呼ばれる概念を定義できるということを以前学習しました。
線形写像には行列が対応するわけですから、行列の階数という概念を線形写像の立場から解釈することができそうです。しかし、このとき問題になるのは、 線形写像に対応している行列は、基底を選ぶことによって初めて決まるもので、しかも、基底を変えれば行列も変わってしまうということです。
そこでまず、「行列の基本変形」と、「線形空間の基底の変換」の関係を調べることにします。そしてその結果を用い、行列の階数という概念を線形写像の立場から解釈することを試みます。
基本変形による基底の変換と線形写像の標準形
まず、行列の変形において基本となる3つの種類の変形と、それら3つの種類の変形を行列の積で実現するための基本となる行列について簡単におさらいします。
基本変形のおさらい
行に関する基本変形
行列 \(A\) に対して
- 第 \(i\) 行と 第 \(j\) 行を入れ替える。
- 第 \(k\) 行を \(r\) 倍する。
- 第 \(l\) 行を \(s\) 倍したものを第 \(m\) 行に足す。ただし、\(s\) は \(0\) でないとする。
という3つの操作を考えることにします。 これらの操作によって行列 \(A\) は変形され、別の行列になります。 この3つの変形を行に関する基本変形といいます。
列に関する基本変形
行列 \(A\) に対して
- 第 \(i\) 列と 第 \(j\) 列を入れ替える。
- 第 \(k\) 列を \(r\) 倍する。
- 第 \(l\) 列を \(s\) 倍したものを第 \(m\) 列に足す。ただし、\(s\) は \(0\) でないとする。
という3つの操作を考えることにします。これらの操作によって行列 \(A\) は変形され、別の行列になります。この3つの変形を列に関する基本変形といいます。
基本行列
基本変形を行列の積で実現するための、3つのタイプの正則な正方行列があるということを以前学習しました。そしてこれらは基本行列と呼ばれるのでした。これら3種類の行列をここでは \(T_m(i,j),M_m(i,r),A_m(i,j;r)\) という記号であらわすことにします。ただし、ここで \(m\) は正方行列の次数、\(i,j\) はそれぞれ行番号と列番号、\(r\) はある数(スカラー)をあらわしています。これらの記号とそれぞれの行列の形についての詳しいことは次をクリックして確認してください。
念のためこれらの行列の形を思い出しておくと…
- 行や列の入れ替えを行う基本行列
\[ \begin{array}{c} \\ \\ \\ T_n(i,j) = \end{array} \begin{array}{cc} \begin{array}{ccccccccccc} \quad & \quad & \quad & \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \,\: & \: & \,\: & \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad & \quad \end{array} & \; \\ \left(\begin{array}{ccccccccccc} 1 & & & \vdots & & & & \vdots & & & \\ & \ddots & & \vdots & & & & \vdots & & & \\ & & 1 & \vdots & & & & \vdots & & & \\ \cdots & \cdots & \cdots & 0 & \cdots & \cdots & \cdots & 1 & \cdots & \cdots & \cdots\\ & & & \vdots & 1 & & & \vdots & & & \\ & & & \vdots & & \ddots & & \vdots & & & \\ & & & \vdots & & & 1 & \vdots & & & \\ \cdots & \cdots & \cdots & 1 & \cdots & \cdots & \cdots & 0 & \cdots & \cdots & \cdots\\ & & & \vdots & & & & \vdots & 1 & & \\ & & & \vdots & & & & \vdots & & \ddots & \\ & & & \vdots & & & & \vdots & & & 1 \end{array}\right) & \begin{array}{r} \\ \\ \\ \leftarrow 第\,i\,行\\ \\ \\ \\ \\ \leftarrow 第\,j\,行\\ \\ \\ \\ \end{array} \end{array} \]
\[ T_n(i,j) = \begin{array}{cc} \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{e}_1\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_j\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_i\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \leftarrow 第\,j\,行 \\ \\\end{array} \end{array} \]
とあらわすことができます。
\(n\) 次の単位列ベクトルを使うと、\(T_n(i,j)\) は\[ \begin{array}{c} \\[4pt] \\ T_n(i,j)= \end{array} \begin{array}{c} \begin{array}{ccccccc} \quad\quad & \quad \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad \end{array} \\ \left(\begin{array}{ccccccc} \boldsymbol{e}_1 & \cdots & \boldsymbol{e}_j & \cdots & \boldsymbol{e}_i & \cdots & \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) \end{array} \]
とあらわすことができます。
\(T_n(i,j)\) は正則で、逆行列は自分自身、つまり \(T_n(i,j)\)です。
- 行や列をスカラー倍する基本行列
\[ \begin{array}{c} \\[ 6pt ] \\ M_n(i;r) = \end{array} \begin{array}{cc} \begin{array}{ccccccc} \quad & \quad & \quad & \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \quad & \quad & \quad \end{array} & \; \\ \left(\begin{array}{ccccccc} 1 & & & \vdots & & & \\ & \ddots & & \vdots & & & \\ & & 1 & \vdots & & &\\ \cdots & \cdots & \cdots & r & \cdots & \cdots & \cdots \\ & & & \vdots & 1 & & \\ & & & \vdots & & 1 & \\ & & & \vdots & & & 1 \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \\ \leftarrow 第\,i\,行 , \quad\mathrm{ただし} r \neq 0 \\ \\ \\ \end{array} \end{array}\]
\[ M_n(i;r) = \begin{array}{cc} \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{e}_1\\ \vdots\\ r\boldsymbol{e}_i\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \end{array} \end{array} \]
\[ \begin{array}{c} \\[ 4pt ] \\ M_n(i;r)= \end{array} \begin{array}{c} \begin{array}{ccccccc} \quad\quad & \quad \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \quad & \quad \end{array} \\ \left(\begin{array}{ccccccc} \boldsymbol{e}_1 & \cdots & r\boldsymbol{e}_i & \cdots & \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) \end{array} \]
とあらわすことができます。
\(M_n(i;r)\) は正則で、逆行列は \(M_n(i;\frac1r)\)です。
- 行や列に別の行や列のスカラー倍をたす基本行列
\[ \begin{array}{c} \\[ 6pt ] \\ A_n(i,j;r) = \end{array} \begin{array}{cc} \begin{array}{cccccc} \quad & \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad & \quad \end{array} & \; \\ \left(\begin{array}{ccccccc} 1 & & \vdots & & & & \\ & \ddots & \vdots & & & & \\ & & 1 & & & & \\ & & \vdots & \ddots & & & \\ \cdots & \cdots & r & \cdots & 1 & \cdots & \cdots\\ & & \vdots & & \vdots & \ddots & \\ & & \vdots & & \vdots & & 1 \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \\ \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \end{array} \end{array} \]
\[ A_n(i,j;r) = E_n + \begin{array}{cc} \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \boldsymbol{0}\\ r\boldsymbol{e}_j\\ \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{0} \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \\ \\ \end{array} \end{array} \]
\[ \begin{array}{c} \\[ 4pt ] \\ A_n(i,j;r) = E_n + \end{array} \begin{array}{c} \begin{array}{cccccccc} \quad & \quad\quad & \quad \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad \end{array} \\ \left(\begin{array}{cccccccc} \boldsymbol{0} & \cdots & \cdots &\boldsymbol{0} & r\boldsymbol{e}_i & \boldsymbol{0} &\cdots & \boldsymbol{0} \end{array}\right) \end{array} \]
基本行列を行列の左から掛けると行に関する基本変形が行われ、右から掛けると列に関する基本変形が行われます。
詳しくいうと以下のようになります。
\((n,m)\) 型行列 \(A\) に「左」から、
- \(T_n(i,j)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 行と第 \(j\) 行 が取り替わります。
- \(M_n(i,r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 行が \(r\) 倍されます。
- \(A_n(i,j;r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 行に第 \(j\) 行 の \(r\) 倍が足されます。
\((n,m)\) 型行列 \(A\) に「右」から、
- \(T_m(i,j)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 列と第 \(j\) 列 が取り替わります。
- \(M_m(i,r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 列が \(r\) 倍されます。
- \(A_m(i,j;r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 列に第 \(j\) 列 の \(r\) 倍が足されます。
基本行列による基底の変換
ここでは、3種類の基本行列 \(T_n(i,j),M_n(i,r),A_n(i,j;r)\) を(行列の基本変形を行うためではなく)基底変換の行列として使ったときにどんなことが起きるのか調べることにします。
線形空間 \(U\) とその基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) があるとします。
- \(T_n(i,j)\) を行列の右から掛けると第 \(i\) 列と 第 \(j\) 列が入れ替わるのですから、
\[ (\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_n)T_n(i,j) =(\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_n) \]
- \(M_n(i,r)\) を行列の右から掛けると第 \(i\) 列が \(r\) 倍されるのですから、
\[ (\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_n)M_n(i,r) =(\boldsymbol{u}_1,\ldots,r\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_n) \]
- \(A_n(i,j;r)\) を行列の右から掛けると第 \(i\) 列に第 \(j\) 列の \(r\) 倍が足されるのですから、
\[ (\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_n)A_n(i,j;r) =(\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i+r\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_n) \]
以上で、基本行列を基底変換のための行列として使うとどのような基底変換が行われるのかということがわかりました。
一般に、どんな基底変換の行列もすべて正則です。そして、正則行列は基本行列の積であらわされるということをすでに学んでいます。ですから、以上の3つのタイプの基底変換を適切に繰り返すことにより、どんな基底変換も実現できることになります。
以上のことを次の命題としてまとめておきます。
命題
線形空間 \(U\) とその基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) があるとします。そして、次のような3つのタイプの基本的な基底変換を考えることにします。
タイプ1:\(U\) の基底を \(\lt\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) から\(\lt\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) へ変換する。(つまり、\(i\) 番目と \(j\) 番目を入れ替える。)
タイプ2:\(U\) の基底を \(\lt\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) から\(\lt\boldsymbol{u}_1,\ldots,r\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) へ変換する。(つまり、\(i\) 番目 を \(r\) 倍する。)
タイプ3:\(U\) の基底を \(\lt\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) から\(\lt\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_i+r\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_j,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) へ変換する。(つまり、\(i\) 番目に \(j\) 番目の \(r\) 倍を足す。)
このとき、タイプ1の基底変換の行列は \(T_n(i,j)\)、タイプ2の基底変換の行列は \(M_n(i,r)\)、タイプ3の基底変換の行列は \(A_n(i,j;r)\) です。
また、任意の基底変換は、これら3種類の基底変換を適切に繰り返すことにより実現することができます。
基底変換の表現行列への影響
\((m,n)\) 型の行列 \(A\) があるとします。そしていま、この \((m,n)\) 型の行列 \(A\) が「ある \(n\) 次元線形空間 \(U\) からある \(m\) 次元線形空間 \(V\) への線形写像 \(f\) の何らかの基底に関する表現行列」となっているとしましょう。このとき、
\(U\) の基底を取り替えると \(f\) の表現行列は \(A\) ではなく \(A\) に右からある正則行列をかけたものになります。
\(V\) の基底を取り替えると \(f\) の表現行列は \(A\) ではなく \(A\) に左からある正則行列をかけたものになります。
これは、前々ページで基底の変換と線形写像の表現行列の関係を学習しているのですでに知っていることですが、ここで念の為説明しておきます。
\(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) を \(U\) の基底、\(\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) を \(V\) の基底とし、これらの基底に関する \(f:U\to V\) の表現行列を \(A\) とします。つまり、\[ \left(f(\boldsymbol{u}_1),\ldots,f(\boldsymbol{u}_n)\right) = \left(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m \right) A \tag{1} \]
とします。
\(U\) の基底を \(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) から別の基底 \(\lt \boldsymbol{u}'_1,\ldots,\boldsymbol{u}'_n\gt\) へ取り替えてみることにします。そしてこの基底変換の変換行列を \(P\) とします。つまり、
\[ \left(\boldsymbol{u}'_1,\ldots,\boldsymbol{u}'_n\right) = \left(\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n \right) P \tag{2} \]
とします。すると、\((2),(1)\) 式より、
\[ \begin{align} \left(f(\boldsymbol{u}'_1),\ldots,f(\boldsymbol{u}'_n)\right) &= \left(f(\boldsymbol{u}_1),\ldots,f(\boldsymbol{u}_n) \right) P \\ &=\left(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m \right) AP \end{align} \]
となることがわかります。これは、\(f\) の行列が \(A\) から \(AP\) へ変わることを意味しています。
\(V\) の基底を \(\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) から別の基底 \(\lt \boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_m\gt\) へ取り替えてみることにします。そしてこの基底変換の変換行列を \(Q\) とします。つまり、
\[ \left(\boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_m\right) = \left(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m \right) Q \tag{3} \]
とします。すると、\((1),(3)\) 式より、
\[ \begin{align} \left(f(\boldsymbol{u}_1),\ldots,f(\boldsymbol{u}_n)\right) &=\left(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m \right) A \\ &=\left(\boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_m \right) Q^{-1}A \\ \end{align} \]
となることがわかります。これは、\(f\) の行列が \(A\) から \(Q^{-1}A\) へ変わることを意味しています。
これらのことを次の命題としてまとめておきます。
命題
\(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) を \(U\) の基底、\(\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) を \(V\) の基底とし、これらの基底に関する \(f:U\to V\) の表現行列を \(A\) とします。また、\(P\) を \(n\) 次の正則行列、\(Q\) を \(m\) 次の正則行列とします。このとき以下のことが成り立ちます。
\(U\) の基底を \((\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n)\) から \((\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n)P\) へ変えることと、\(f\) の表現行列を \(A\) から \(AP\) へ変えることは同じことです。
\(V\) の基底を \((\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m)\) から \((\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_n)Q\) へ変えることと、\(f\) の表現行列を \(A\) から \(Q^{-1}A\) へ変えることは同じことです。
注意:この命題では、ずるをして基底を \((\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n)\) や \((\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n)P\) のようにあらわしています。本来ならば、これらはそれぞれ、\(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) や、\(\left( \boldsymbol{u}'_1,\ldots,\boldsymbol{u}'_n \right) = (\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n)P\) により決まる \(\lt \boldsymbol{u}'_1,\ldots,\boldsymbol{u}'_n\gt\) のようにあらわされるものです。
線形写像の標準形を基本変形で求めること
基底の変換をおこなうと線形写像の表現行列が変わるわけですが、基底変換の行列は正則で、基本行列の積として作ることができます。 そして、基本行列を次々に基底変換の行列として使うことは、線形写像の表現行列に対して基本変形を次々におこなうのと同じことになるわけです。ということは、基本変形を次々におこなうことにより、線形写像の標準形を求めることができるわけです。
例
\(\mathbb{K}\) 上の \(2\) 次元線形空間 \(U\) から \(3\) 次元線形空間 \(V\) への線形写像 \(f\) があるとします。
\(U\) のある基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2\gt\) と \(V\) のある基底 \(\lt \boldsymbol{ v}_1,\boldsymbol{v}_2,\boldsymbol{v}_3\gt\) に関する \(f\) の表現行列が\[ \left(\begin{array}{rr} -3&1\\ -5&2\\ 10&-2 \end{array}\right) \]
となっているとします。\(f\) の標準形を基本変形で求めると、たとえば次のようにできます。
\[ \begin{array}{cl|l} 基本変形 & & 対応する基本行列\\ \hline & & \\ \left(\begin{array}{rr} -3&1\\ -5&2\\ 10&-2 \end{array}\right) & & \\ \Downarrow & 第1列と第2列を入れ替え & 右から\left(\begin{array}{rr} 0&1\\ 1&0 \end{array}\right) を掛ける\\ \left(\begin{array}{rr} 1&-3\\ 2&-5\\ -2&10 \end{array}\right) & & \\ \Downarrow & 2行+1行\times(-2) & 左から \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ -2&1&0\\ 0&0&1 \end{array}\right) を掛ける\\ \left(\begin{array}{rr} 1&-3\\ 0&1\\ -2&10 \end{array}\right) & & \\ \Downarrow & 3行+1行\times 2 & 左から \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 2&0&1 \end{array}\right) を掛ける\\ \left(\begin{array}{rr} 1&-3\\ 0&1\\ 0&4 \end{array}\right) & & \\ \Downarrow & 2列+1列\times 3 & 右から \left(\begin{array}{rr} 1&3\\ 0&1 \end{array}\right) を掛ける\\ \left(\begin{array}{rr} 1&0\\ 0&1\\ 0&4 \end{array}\right) & & \\ \Downarrow & 3行+2行\times (-4) & 左から \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 0&-4&1 \end{array}\right) を掛ける\\ \left(\begin{array}{rr} 1&0\\ 0&1\\ 0&0 \end{array}\right) & & \\ \end{array} \]
ここでは基底の変換がどのようになるのか追跡するために、対応する基本変形を書いておきました。 右から掛ける操作は \(U\) の基底を変換する行列で、左から掛ける操作は \(V\) の基底を変換する操作の逆行列に対応することに注意しておきましょう。
ですから、\(U\) の基底変換の行列を \(P\) とすると、\[ \begin{align} P&=\left(\begin{array}{rr} 0&1\\ 1&0 \end{array}\right) \left(\begin{array}{rr} 1&3\\ 0&1 \end{array}\right)\\[15pt] &=\left(\begin{array}{rr} 1&0\\ 1&3 \end{array}\right) \end{align} \]
となります。
また、\(V\) の基底変換の行列を \(Q\) とすると、\[ Q^{-1}=\left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 0&-4&1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 2&0&1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ -2&1&0\\ 0&0&1 \end{array}\right) \]
\[ \begin{align} Q&=\left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ -2&1&0\\ 0&0&1 \end{array}\right) ^{-1} \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 2&0&1 \end{array}\right)^{-1} \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 0&-4&1 \end{array}\right) ^{-1}\\[15pt] &=\left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 2&1&0\\ 0&0&1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ -2&0&1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 0&1&0\\ 0&4&1 \end{array}\right) \\[15pt] &=\left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 2&1&0\\ -2&4&1 \end{array}\right) \\ \end{align} \]
であることがわかります。
これらより、\(f\) の標準形を与える \(U,V\) の基底をそれぞれ \(\lt \boldsymbol{u}'_1,\boldsymbol{u}'_2 \gt,\lt \boldsymbol{v}'_1,\boldsymbol{v}'_2,\boldsymbol{v}'_3 \gt\) とすると、それらは\[ \left( \boldsymbol{u}'_1,\boldsymbol{u}'_2\right)=\left( \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2\right)\left(\begin{array}{rr} 1&0\\ 1&3 \end{array}\right) \]
\[ \left(\boldsymbol{v}'_1,\boldsymbol{v}'_2,\boldsymbol{v}'_3\right) =\left(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\boldsymbol{v}_3\right) \left(\begin{array}{rrr} 1&0&0\\ 2&1&0\\ -2&4&1 \end{array}\right) \]
として求めることができます。
線形写像の階数と行列の階数
行列 \(A\) に行および列に関する基本変形をおこなって標準形にしたときに、\(1\) が並ぶ個数を \(A\) の階数といい、\(\mathrm{rank}(A)\) という記号であらわすのでした。
ところで、行列を、ある2つの線形空間の間のある線形写像のある基底に関する表現行列と思うと、表現行列に対する基本変形は線形空間の基底の変換を行うのと同じことなのでした。というわけで、基底変換によって実現されるはずの線形写像の標準形への変形は、表現行列に対して基本変形を行うことによって実現できるということをこれまで説明してきました。
このようなことを考えに入れると、行列の階数は線形写像の立場から解釈できるはずです。
命題
\(f:U\to V\) を\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元線形空間 \(U\) から \(m\) 次元線形空間 \(V\) への線形写像とします。
また、\(U\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) と \(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) を選んでおき、\(A\) をそれらの基底に関する \(f\) の表現行列とします。 さらに、この行列 \(A\) で定まる \(\mathbb{K}^n\) から \(\mathbb{K}^m\) への線形写像 \(f_A:\mathbb{K}^n \to \mathbb{K}^m,\boldsymbol{x}\mapsto A\boldsymbol{x}\) を考えます。
このとき、以下のことが成り立ちます。
1. \(V\) の部分空間 \(f(U)\) の次元は \(\mathbb{K}^m\) の部分空間 \(f_A(\mathbb{K}^n)\) の次元に等しくなります。
\(V\) の部分空間 \(f(U)\) の次元は \(\mathrm{rank}(A)\) に等しくなります。
\(A\) の列ベクトルで線形独立なものの最大数は \(\mathrm{rank}(A)\) に等しくなります。
\(A\) の行ベクトルで線形独立なものの最大数は \(\mathrm{rank}(A)\) に等しくなります。
証明
\(U\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt\) により \(U\) のベクトル
\[ x_1\boldsymbol{u}_1+\cdots+x_n\boldsymbol{u}_n \]
を \(\mathbb{K}^n\) の数ベクトル
\[ \left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\x_n\end{array}\right) \]
と同一視できます。 同様に、\(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) により \(V\) のベクトル
\[ y_1\boldsymbol{v}_1+\cdots+y_m\boldsymbol{v}_m \]
を \(\mathbb{K}^m\) の数ベクトル
\[ \left(\begin{array}{c}y_1\\ \vdots\\y_m\end{array}\right) \]
と同一視できます。このような同一視のもとで、\(U\) から \(V\) への線形写像 \(f\) を 行列 \(A\) を左からかける線形写像
\[ f_A:\mathbb{K}^n \to \mathbb{K}^m,\,\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\x_n\end{array}\right) \mapsto A\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\x_n\end{array}\right) \]
と同一視することができるのでした。ですから、\(f(U)\) の次元と \(f_A(\mathbb{K}^n)\) の次元は等しくなります。
\(f\) の表現行列 \(A\) に対して基本変形をおこなっていくことは、\(U,V\) の基底に対する基底変換をおこなうことと同じことです。
また、\(U,V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt,\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) に関する \(f\) の表現行列 \(A\) は \(U,V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}'_1,\ldots,\boldsymbol{u}'_n\gt,\lt \boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_m\gt\) をうまく選んで基底変換をおこなえば標準形になるということを前々ページで学習しています。
このような基底変換をおこなった結果、標準形となった行列には \(1\) が \(r\) 個並んだとしましょう。 つまり、この基底に関して\[ \left( f(\boldsymbol{u}'_1),\ldots\ldots, f(\boldsymbol{u}'_r),f(\boldsymbol{u}'_{r+1}),\ldots, f(\boldsymbol{u}'_n) \right) =\left( \boldsymbol{v}'_1,\ldots\ldots,\boldsymbol{v}'_{r},\boldsymbol{v}'_{r+1},\ldots,\boldsymbol{v}'_{m}\right) \left(\begin{array}{rrrrrrr} 1&\cdots & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\ \vdots & \ddots & & \vdots & \vdots & & \vdots \\ \vdots & & \ddots & \vdots & \vdots & & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots & 1 & 0 & \cdots & 0\\ 0 & \cdots & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\ \vdots & & & \vdots & \vdots & & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots &0 & 0 & \cdots & 0\\ \end{array}\right) \]
となったとします。
これより \(f(U)\)は \(\boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_r\) で生成される \(V\) の部分空間であることがわかります。
さらに、\(\boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_r\) は \(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_m\gt\) の一部からなるベクトルなので線形独立です。ですから、\(\boldsymbol{v}'_1,\ldots,\boldsymbol{v}'_r\) は \(f(U)\) の基底になり、\(f(U)\) の次元は \(r\) ということになります。\(r\) は \(A\) に基本変形をおこなってできた標準形に現れる \(1\) の個数と思ってよいのですから \(r\) は \(A\) の階数です。
以上で、\(f(U)\) の次元は \(\mathrm{rank}(A)\) に等しいことが証明されました。\(A\) を列ベクトルで区分けして \(A=\left(\boldsymbol{a}_1\, \ldots\,\boldsymbol{a}_n\right)\) と書くことにします。
\[ \begin{align} f_A\left(\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\x_n\end{array}\right)\right) &=A\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\x_n\end{array}\right)\\ &=\left(\boldsymbol{a}_1\, \ldots\,\boldsymbol{a}_n\right)\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\x_n\end{array}\right)\\ &=x_1\boldsymbol{a}_1 + \cdots + x_n\boldsymbol{a}_n \end{align} \]
となるわけですから、\(f_A(\mathbb{K}^n)\) は \(\boldsymbol{a}_1, \ldots,\boldsymbol{a}_n\) で生成される \(\mathbb{K}^m\) の部分空間です。
ということは、、\(f_A(\mathbb{K}^n)\) の次元は \(\boldsymbol{a}_1, \ldots,\boldsymbol{a}_n\) のうち線形独立であるものの最大数に等しくなります。
2.より \(f_A(\mathbb{K}^n)\) の次元は \(f(U)\) の次元に等しく、1.より \(f(U)\) の次元は \(\mathrm{rank}(A)\) に等しいので、主張は証明されたことになります。行列 \(A\) の転置行列 \({}^t \! A\) を考えてみると、\(A\) の行は \({}^t \! A\) の列に対応します。 \(A\) を標準形にするための基本変形は、いくつかの基本行列を \(A\) の左または右から掛けることにより実現されますが、このとき、左から掛けた基本行列の積を \(B\) 、右から掛けた基本行列の積を \(C\) とすると、 \[ BAC=\left(\begin{array}{rrrrrrr} 1&\cdots & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\ \vdots & \ddots & & \vdots & \vdots & & \vdots \\ \vdots & & \ddots & \vdots & \vdots & & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots & 1 & 0 & \cdots & 0\\ 0 & \cdots & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\ \vdots & & & \vdots & \vdots & & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots &0 & 0 & \cdots & 0\\ \end{array}\right) \] となるわけです。 これより、 \[ {}^t \! C{}^t \! A{}^t \! B=\left(\begin{array}{rrrrrrr} 1&\cdots & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\ \vdots & \ddots & & \vdots & \vdots & & \vdots \\ \vdots & & \ddots & \vdots & \vdots & & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots & 1 & 0 & \cdots & 0\\ 0 & \cdots & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\ \vdots & & & \vdots & \vdots & & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots &0 & 0 & \cdots & 0\\ \end{array}\right) \] となることがわかります。 これは、\({}^t \! A\) を基本変形して標準形にすると、\(A\) の標準形とおなじだけ \(1\) が並ぶことを意味します。 ですから、 \[ \mathrm{rank}({}^t \! A)=\mathrm{rank}(A) \] が成り立ちます。 このことと 3. より \(\mathrm{rank}(A)\) は \({}^t \! A\) の列ベクトルのうち線形独立なものの最大数と等しいということになり、さらに \(A\) の行ベクトルのうち線形独立なものの最大数と等しくなるということがわかります。
行列式で学んだことを思い出すと、\(\mathrm{rank}(A)\) は \(A\) の \(0\) ではない小行列式の最大次数と等しくなることをすでに知っています。 このことと、上の命題により、
- \(f(V)\) の次元
- \(f_A(\mathbb{K}^n)\) の次元
- \(A\) の列ベクトルで線形独立なものの最大数
- \(A\) の行ベクトルで線形独立なものの最大数
- \(A\) の \(0\) ではない小行列式の最大次数
はすべて \(\mathrm{rank}(A)\) と等しいことがわかりました。
まとめ
線形空間 \(U,V\) と \(U\) から \(V\) への線形写像 \(f:U \to V\) があるとします。
正則行列 \(P\) で \(U\) の基底変換を行うことと、\(f\) の表現行列に右から \(P\) をかけることは同じことです。また、正則行列 \(Q\) で \(V\) の基底変換を行うことと、\(f\) の表現行列に左から \(Q^{-1}\) をかけることは同じことです。
行列の基本変形を行うときに用いる基本行列を基底変換の行列として用いると、次の3種の基底変換を実行できます。
- 基底を構成している \(i\) 番目のベクトルと \(j\) 番目のベクトルを入れ替える。
- 基底を構成している \(i\) 番目のベクトルを \(r\) 倍する。
- 基底を構成している \(i\) 番目のベクトルに \(j\) 番目のベクトルの \(r\) 倍を足す。
そしてこのとき、この3種の基底変換に対してそれぞれ次のような \(f\) の表現行列に対する基本変形を引き起こします。
- 第 \(i\) 行(列)と第 \(j\) 行(列)が入れ替わる。
- 第 \(i\) 行(列)が \(r\) 倍される。
- 第 \(i\) 行(列)に第 \(j\) 行(列)の \(r\) 倍が足される。
のように変わります。ただしここで、\(U\) の基底変換は列の変形を引き起こし、 \(V\) の基底変換は列の変形を引き起こしています。
正則行列は基本行列の積としてあらわすことができるので、どんな基底変換も上の3つの基底変換を適切に繰り返すことにより実現できることになります。そしてこのことから、線形写像の表現行列に対して行列の基本変形を行っていくことにより線形写像の標準形を求めることができるということがわかります。(これは、逆にいうと、行列の基本変形によって行列を標準形に変形していくという操作は、その行列を表現行列として持つ線形写像の「元となる線形空間」と「ターゲットとなる線形空間」それぞれの基底に対して上の3種の基本的な基底変換を行っていることを意味します。)
線形空間 \(U,V\) と \(U\) から \(V\) への線形写像 \(f:U \to V\) があるとし、\(U,V\) のある基底に関する \(f\) の表現行列を \(A\) とします。さらに、この行列 \(A\) で定まる \(\mathbb{K}^n\) から \(\mathbb{K}^m\) への線形写像 \(f_A:\mathbb{K}^n \to \mathbb{K}^m,\boldsymbol{x}\mapsto A\boldsymbol{x}\) を考えます。このとき、
- \(f(V)\) の次元
- \(f_A(\mathbb{K}^n)\) の次元
- \(A\) の列ベクトルで線形独立なものの最大数
- \(A\) の行ベクトルで線形独立なものの最大数
- \(A\) の \(0\) ではない小行列式の最大次数
はすべて \(\mathrm{rank}(A)\) と等しいことがわかります。