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線形写像と線形変換

2023-03-11

2つの線形空間があるとします。そして、片方の線形空間に属しているベクトルをもう片方の線形空間に属しているベクトルに対応させる何らかの決まり(つまり写像)を考えることにします。もしこの対応が、和をつくる操作とスカラー倍をする操作に関して整合性がとれているならば、この対応は線形空間と相性のよい写像であり、数学的には探求する価値があると言えるでしょう。

線形写像

これまでどおり、\(\mathbb{K}\) は 複素数の集合 \(\mathbb{C}\) または 実数の集合 \(\mathbb{R}\) のいずれかをあらわすことにします。そして成分が \(\mathbb{K}\)\(n\) 次の数ベクトルの空間を \(\mathbb{K}^n\) という記号であらわすことにします。 (このような記号の使い方のもとで、成分がすべて実数の数ベクトルの空間は \(\mathbb{R}^n\)、 成分がすべて複素数の数ベクトルの空間は \(\mathbb{C}^n\) という記号であらわされることになります。)

線形写像とは

定義

\(V,W\)\(\mathbb{K}\) 上の線形空間とし \(f\)\(V\) から \(W\) への写像 とします。そして \(f\) は次の2つの条件を満たしているとします。

  1. \(V\) に属している2つのベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) に対して、

    \[ f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}) = f(\boldsymbol{x})+f(\boldsymbol{y})\]

    が成り立つ。
  2. \(V\) に属しているベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)\(\mathbb{K}\) に属しているスカラー \(c\) に対して、

    \[ f(c\,\boldsymbol{x}) = cf(\boldsymbol{x}) \]

    が成り立つ。

このとき \(f\)\(V\) から \(W\) への線形写像(または一次写像)であるといいます。

補足
1.は、

\(V\) で2つのベクトルの和を作ってから \(f\)\(W\) のベクトルに対応させたもの

それぞれのベクトルを \(f\)\(W\) のベクトルに対応させてから、\(W\) で和を作ったもの

が同じになるという意味です。

このことを、「\(f\) は和を保つ」という言い回しであらわすことがあります。

2.は、

\(V\) でベクトルをスカラー倍してから \(f\)\(W\) のベクトルに対応させたもの

ベクトルを \(f\)\(W\) のベクトルに対応させてから、\(W\) でスカラー倍したもの

が同じになるという意味です。

このことを、「\(f\) はスカラー倍を保つ」という言い回しであらわすことがあります。

以上のような意味で、1.と 2.を満たす \(f\) は、\(V\) における演算と \(W\) における演算の間で整合性がとれていると言えるわけです。

命題

線形空間 \(V\) から線形空間 \(W\) へのどんな線形写像 \(f\)\(V\) の零ベクトルを \(W\) の零ベクトルへ写します。

証明

\(f\) を線形写像とすると

\[ f(\boldsymbol{0}+\boldsymbol{0})=f(\boldsymbol{0})+f(\boldsymbol{0}) \tag{1} \]

が成り立ちます。

また \(\boldsymbol{0}+\boldsymbol{0}=\boldsymbol{0}\) ですから、 \[f(\boldsymbol{0}+\boldsymbol{0})=f(\boldsymbol{0}) \tag{2}\] が成り立ちます。

\((1)\) 式と \((2)\) 式より、

\[f(\boldsymbol{0})=f(\boldsymbol{0})+f(\boldsymbol{0})\]

となり、これより

\[ f(\boldsymbol{0})=\boldsymbol{0}\]

であることがわかります。

同型写像

定義

\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) から \(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(W\) への「線形」写像 \(f\)

  1. \(\boldsymbol{x}\neq \boldsymbol{x}'\) ならば \(f(\boldsymbol{x})\neq f(\boldsymbol{x}')\) が成り立つ。
  2. どんな \(W\) のベクトル \(\boldsymbol{y}\) に対しても \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) があり \(f(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{y}\) となる。

という2つの条件を満たしているとき \(f\)(線形)同型写像であるといいます。

補足
1.は \(f\) によって異なるベクトルは異なるベクトルに対応するという条件をあらわしています。
2.は \(f\) による対応で余ってしまうベクトルはないという条件をあらわしています。
そして、1.と2.を合わせて考えると、\(V\) のベクトルと \(W\) のベクトルは余ることなく \(f\) によって \(1:1\) に対応するということになります。ですから、\(f\) によって \(V\)\(W\) の間でベクトルの名前の付け替えが行われていると思うこともできます。また、\(f\) は線形なので和やスカラー倍を保ちますからその名前の付け替えのもとで、和やスカラー倍のような演算は \(V\) で考えても \(W\) でも考えても同じになることが保証されるわけです。

\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) から \(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(W\) への同型写像が存在するとき、\(V\)\(W\)同型であるといいます。

補足
同型な線形空間は、同型写像によるベクトルの名前の付け替えのもとで全く同じ構造をしているものと考えることができるわけです。

命題

\(\mathbb{K}\) 上のどんな \(n\) 次元線形空間も \(n\) 次の数ベクトル空間 $ ^n$ と同型です。

証明

\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元線形空間とします。

\(V\) の基底 \(\lt\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_n\gt\) を1つ選ぶと \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\)\(\mathbb{K}\) のスカラー \(x_1,x_2,\ldots,x_n\) を用いて

\[ \boldsymbol{x}=x_1\boldsymbol{v}_1+x_2\boldsymbol{v}_2+ \cdots + x_n\boldsymbol{v}_n \]

と一通りにあらわすことができるのでした。そこで、\(V\) から \(\mathbb{K}^n\) への写像 \(f\)

\[ f(\boldsymbol{x})=\left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n \end{array}\right) \]

として定義します。

この \(f\) が同型写像であるのはほとんど明らかです。

念のため説明しておくと…

  1. \(f\) は線形写像であること。
  2. \(f\)\(1:1\) であること。
  3. \(f\) により \(\mathbb{K}^n\) は余ることなく埋め尽くされること。

を示せばよいわけです。

1.について

\[ \begin{align} \boldsymbol{x}&=x_1\boldsymbol{v}_1+x_2\boldsymbol{v}_2+ \cdots + x_n\boldsymbol{v}_n,\\ \boldsymbol{x}'&=x'_1\boldsymbol{v}_1+x'_2\boldsymbol{v}_2+ \cdots + x'_n\boldsymbol{v}_n \end{align} \]

\(V\) の2つのベクトルとし、\(c\)\(\mathbb{K}\) のスカラーとします。

\[ \boldsymbol{x}+\boldsymbol{x}'=(x_1+x'_1)\boldsymbol{v}_1+(x_2+x'_2)\boldsymbol{v}_2+ \cdots + (x_n+x'_n)\boldsymbol{v}_n \]

となるので

\[ f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{x}') =\left(\begin{array}{c} x_1+x'_1\\ x_2+x'_2\\ \vdots\\ x_n+x'_n \end{array}\right) =\left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n \end{array}\right)+\left(\begin{array}{c} x'_1\\ x'_2\\ \vdots\\ x'_n \end{array}\right) =f(\boldsymbol{x})+f(\boldsymbol{x}') \]

が成り立ちます。

\[ c\boldsymbol{x}=cx_1\boldsymbol{v}_1+cx_2\boldsymbol{v}_2+ \cdots + cx_n\boldsymbol{v}_n \]

となるので

\[ f(c\boldsymbol{x}) =\left(\begin{array}{c} cx_1\\ cx_2\\ \vdots\\ cx_n \end{array}\right) =c\left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n \end{array}\right) =cf(\boldsymbol{x}) \]

が成り立ちます。

以上で \(f\) は線形写像であることがわかりました。

2.について
\[ \begin{align} \boldsymbol{x}&=x_1\boldsymbol{v}_1+x_2\boldsymbol{v}_2+ \cdots + x_n\boldsymbol{v}_n,\\ \boldsymbol{x}'&=x'_1\boldsymbol{v}_1+x'_2\boldsymbol{v}_2+ \cdots + x'_n\boldsymbol{v}_n \end{align} \]\(V\) の2つのベクトルとします。

\(\boldsymbol{x}\neq\boldsymbol{x}'\) とすると、ある \(i\) に対して \(x_i \neq x'_i\) となっているものがあるわけです。ですから、\(f(\boldsymbol{x})=\left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n \end{array}\right)\)\(f(\boldsymbol{x}')=\left(\begin{array}{c} x'_1\\ x'_2\\ \vdots\\ x'_n \end{array}\right)\) は異なります。

3.について
\(\left(\begin{array}{c} y_1\\ y_2\\ \vdots\\ y_n \end{array}\right)\)\(\mathbb{K}^n\) の勝手な数ベクトルとします。

このとき \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{y}=y_1\boldsymbol{v}_1+y_1\boldsymbol{v}_2+ \cdots + y_1\boldsymbol{v}_n\)

\[ f(\boldsymbol{y})=\left(\begin{array}{c} y_1\\ y_2\\ \vdots\\ y_n \end{array}\right) \]

を満たします。
(証明終わり)

行列により定義される数ベクトル空間の線形写像

ではこれから、数ベクトルの空間 \(\mathbb{K}^n\) から 数ベクトルの空間 \(\mathbb{K}^m\) への線形写像について考えることにします。

まず、\((m,n)\) 型の行列 \(A=\left(\begin{array}{cccc} a_{11 }& a_{12} & \cdots & a_{mn}\\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{mn}\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn}\\ \end{array}\right)\) を用意します。 そして、\(\mathbb{K}^n\) から \(\mathbb{K}^m\) への写像 \(f\) を、各 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\\vdots \\x_n\end{array}\right)\) に対して、 \[f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}\] で定義することにします。

このようにして行列を数ベクトルに掛けることによって定義される写像は線形写像であることをこれから確認することにします。

\(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2\)\(V\) の2つのベクトルとします。

行列の積は分配法則を満たすので

\[ f(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2)=A(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2) =A\boldsymbol{x}_1+A\boldsymbol{x}_2 =f(\boldsymbol{x}_1)+f(\boldsymbol{x}_2) \]

が成り立ちます。これで \(f\) は和を保つことが確認できました。

\(\boldsymbol{x}\)\(V\) ののベクトルとし、\(c\)\(\mathbb{K}\) に属するスカラーとします。

行列の積は交換法則を満たすので

\[ f(c\boldsymbol{x})=A(c\boldsymbol{x}) =cA\boldsymbol{x}=cf(\boldsymbol{x}) \]

が成り立ちます。これで \(f\) はスカラー倍を保つことが確認できました。

以上で、\(f\) は線形写像であるための条件を満たしていることが確かめられました。

\(V\) を成分が \(\mathbb{K}\)\(3\) 次の数ベクトルの空間とし(つまり \(V=\mathbb{K}^3\))、\(W\) を成分が \(\mathbb{K}\)\(2\) 次の数ベクトルの空間(つまり \(W=\mathbb{K}^2\))とします。 またここで、\((2,3)\) 型の行列 \(A=\left(\begin{array}{r} 1& 1& 3\\ 2 &1 & -2\end{array}\right)\) を使い、\(V\) から \(W\) への写像 \(f\) を、各 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\x_3\end{array}\right)\) に対して、

\[ f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x} \tag{3}\]

で定義することにします。

先に説明したとおり、この写像 \(f\) は線形写像となります。

それではここで、 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) だけでなく、\(W\) のベクトルである \(f(\boldsymbol{x})\) も成分で扱うことにし、

\[ f(\boldsymbol{x})=\left(\begin{array}{c}y_1\\y_2\end{array}\right) \]

とおくことにします。そうすると、\((3)\) 式は

\[ \left(\begin{array}{c}y_1\\y_2\end{array}\right) =\left(\begin{array}{r} 1& 1& 3\\ 2 &1 & -2\end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\x_3\end{array}\right) \tag{4} \]

と書くことができます。

\((4)\) 式を使って、たとえば、この線形写像 \(f\)\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{e}_1=\left(\begin{array}{r}1\\0\\0\end{array}\right),\boldsymbol{e}_2=\left(\begin{array}{r}0\\1\\0\end{array}\right),\boldsymbol{e}_3=\left(\begin{array}{r}0\\0\\1\end{array}\right)\) がどのような \(W\) のベクトルに写像されるか計算してみると、

\[ f(\boldsymbol{e}_1)=\left(\begin{array}{r}1\\2\end{array}\right),\, f(\boldsymbol{e}_2)=\left(\begin{array}{r}1\\1\end{array}\right),\, f(\boldsymbol{e}_3)=\left(\begin{array}{r}3\\-2\end{array}\right) \]

となることがわかります。

ここで、この計算結果と行列 \(A\) をよくみてみましょう。

計算を振り返ってみるとまあ、当たり前なのですが、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{e}_1)&=A\, の第\,1\,列\\ f(\boldsymbol{e}_2)&=A\, の第\,2\,列\\ f(\boldsymbol{e}_3)&=A\, の第\,3\,列\\ \end{align} \]

であることがわかります。

ここまで、\((n,m)\) 型の行列は \(n\) 次元の数ベクトルの空間 \(\mathbb{K}^n\) から \(m\) 次元の数ベクトルの空間 \(\mathbb{K}^m\) への線形写像を定めることができるということを説明してきました。

そこで次に問題になるのは、 \(\mathbb{K}^n\) から \(\mathbb{K}^m\) への線形写像はそのようなものしかないのか?ということです。そして、この問題の答えとなるのが次の定理です。

定理

\(\mathbb{K}^n\) から \(\mathbb{K}^m\)へのどんな線形写像 \(f\) にもある\((n,m)\) 型の行列 \(A\) が存在していて、\(\mathbb{K}^n\) の各ベクトル $ $ に対して

\[f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}\]

が成り立ちます。

証明

まず、\(\mathbb{K}^n\)\(n\) 項単位ベクトル

\[ \boldsymbol{e}_1=\left(\begin{array}{r}1\\0\\ \vdots\\0\end{array}\right),\boldsymbol{e}_2=\left(\begin{array}{r}0\\1\\\vdots\\0\end{array}\right),\ldots,\boldsymbol{e}_n=\left(\begin{array}{r}0\\0\\ \vdots\\1\end{array}\right) \]

\(f\) で写像したものを考えることにしましょう。それらはどれも \(m\) 次の数ベクトルになります。そしてそれらを次のように並べて、

\[ A=\left(f(\boldsymbol{e}_1),f(\boldsymbol{e}_2),\ldots,f(\boldsymbol{e}_n)\right)\tag{5} \]

とおくと、\(A\)\((m,n)\) 型の行列です。

実は、この \(A\) が定理の主張に現れているものであるということをこれから確認することにします。

\(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\ \vdots\\x_n\end{array}\right)\)\(\mathbb{K}^n\) のベクトルとします。

\[ \boldsymbol{x}=x_1\boldsymbol{e}_1+x_2\boldsymbol{e}_2+\cdots+x_n\boldsymbol{e}_n \]

となっているわけですから、\(f\) が線形写像であるということを利用すると、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{x})&=f(x_1\boldsymbol{e}_1+x_2\boldsymbol{e}_2+\cdots+x_n\boldsymbol{e}_n)\\ &=x_1f(\boldsymbol{e}_1)+x_2f(\boldsymbol{e}_2)+\cdots+x_nf(\boldsymbol{e}_n)\\ &=\left(f(\boldsymbol{e}_1),f(\boldsymbol{e}_2),\ldots,f(\boldsymbol{e}_n)\right)\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\ \vdots\\x_n\end{array}\right)\\ &=A\boldsymbol{x} \end{align}\]

となっていることがわかります。 つまり、\(f\)\((5)\) で定まる \((m,n)\) 型行列 \(A\) によって、

\[ f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x} \]

とあらわすことができるということです。
(証明終わり)

\(V\) を成分が \(\mathbb{K}\)\(3\) 次の数ベクトルの空間(つまり \(V=\mathbb{K}^3\))とし、\(W\) を成分が \(\mathbb{K}\)\(4\) 次の数ベクトルの空間(つまり \(W=\mathbb{K}^4\))とします。 また、 \[ f:V\to W \]\(V\) から \(W\) への線形写像とします。

\(\boldsymbol{e}_1=\left(\begin{array}{r}1\\0\\0\end{array}\right),\boldsymbol{e}_2=\left(\begin{array}{r}0\\1\\0\end{array}\right),\boldsymbol{e}_3=\left(\begin{array}{r}0\\0\\1\end{array}\right)\)\(V\)\(3\) 項単位ベクトル とします。 そしていま、例えば、

\[ f(\boldsymbol{e}_1)=\left(\begin{array}{r}3\\1\\0\\-1\end{array}\right),f(\boldsymbol{e}_2)=\left(\begin{array}{r}1\\2\\1\\-1\end{array}\right),f(\boldsymbol{e}_3)=\left(\begin{array}{r}-2\\4\\7\\3\end{array}\right) \]

となっているとします。 このとき \[ A=\left(\begin{array}{r} 3 & 1 & -2\\ 1 & 2 & 4\\ 0 & 1 & 7\\ -1 & -1 & 3 \end{array}\right) \] とおくと、直前の定理の証明の中で説明されていたように、すべての \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、

\[ f(\boldsymbol{x}) = A\boldsymbol{x} \]

が成り立ちます。

線形写像の核と像

定義

\(f\)\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) から \(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(W\) への線形写像とします。

  1. \(f(\boldsymbol{x})= \boldsymbol{0}\) となる \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) をすべて集めてできる集合を \(f\)といい、\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\)\(\mathrm{Ker}f\) という記号であらわします。 集合の記号を使って書くと、 \[ f^{-1}(\boldsymbol{0})=\{\boldsymbol{x} \in V|f(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{0} \} \] とあらわせます。
  2. \(V\) の各ベクトル \(\boldsymbol{x}\)\(f\) による行き先(つまり \(f\) で対応させられる \(W\) のベクトル)\(f(\boldsymbol{x})\) をすべて集めてできる集合を \(f\)といい、\(f(V)\)\(\mathrm{Im}f\) という記号であらわします。言い換えると、ある \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) が存在し、\(\boldsymbol{y}=f(\boldsymbol{x})\) となるような \(W\) のベクトル \(\boldsymbol{y}\) をすべて集めてできる集合です。集合の記号を使って書くと、

    \[ \begin{align} f(V) &=\{\boldsymbol{f(x)}\,|\,\boldsymbol{x} \in V \}\\ &=\left\{\boldsymbol{y}\, \in W \left| \begin{array}{l}ある V のベクトル\,\boldsymbol{x}\,が存在し、\\ \boldsymbol{y}=f(\boldsymbol{x})\,となっている \end{array} \right. \right\} \end{align} \]

    とあらわせます。

命題

\(f\)\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) から \(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(W\) への線形写像とします。

  1. \(f\) の核 \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\)\(V\) の部分空間です。
  2. \(f\) の像 \(f(V)\)\(W\) の部分空間です。

証明

線形空間の部分空間とは、単に部分集合になっているだけではなく線形空間の構造を持っているようなもののことでした。つまり、和を作る操作やスカラー倍をする操作をおこなってもその部分集合の外へ “飛び出すことがない” 部分集合のことでした。というわけで、このことを \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\)\(f(V)\) に対して確認してみることにします。

  1. \(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2\)\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属している2つのベクトルとします。
    \(f\) は和を保つので

    \[ f(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2)=f(\boldsymbol{x}_1)+f(\boldsymbol{x}_2)= \boldsymbol{0}+\boldsymbol{0} =\boldsymbol{0} \]

    が成り立ちます。よって、\(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2\)\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属しています。

    \(\boldsymbol{x}\)\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属しているベクトルとし、\(c\)\(\mathbb{K}\) に属しているスカラーとします。
    \(f\) はスカラー倍を保つので

    \[ f(c\boldsymbol{x})=cf(\boldsymbol{x})=c\boldsymbol{0}=\boldsymbol{0} \]

    が成り立ちます。よって、\(c\boldsymbol{x}\)\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属しています。

    以上から、\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\)\(V\) の部分空間であることがわかります。

  2. \(\boldsymbol{y}_1,\boldsymbol{y}_2\)\(f(V)\) に属している2つのベクトルとします。 すると、2つの \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2\) が存在して、

    \[ \boldsymbol{y}_1=f(\boldsymbol{x}_1),\,\boldsymbol{y}_2=f(\boldsymbol{x}_2) \]

    となっています。 \(f\) は和を保つので

    \[ \boldsymbol{y}_1+\boldsymbol{y}_2=f(\boldsymbol{x}_1)+f(\boldsymbol{x}_2)=f(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2) \]

    となります。つまり、\(\boldsymbol{y}_1+\boldsymbol{y}_2\) には \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2\) が存在して、

    \[ \boldsymbol{y}_1+\boldsymbol{y}_2=f(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2) \]

    となるということなので、\(\boldsymbol{y}_1+\boldsymbol{y}_2\)\(f(V)\) に属しています。

    \(\boldsymbol{y}\)\(f(V)\) に属しているベクトルとし、\(c\)\(\mathbb{K}\) に属しているスカラーとします。 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) が存在して、

    \[ \boldsymbol{y}=f(\boldsymbol{x}) \]

    となっています。 \(f\) はスカラー倍を保つので

    \[ c\boldsymbol{y}=cf(\boldsymbol{x})=f(c\boldsymbol{x}) \]

    が成り立ちます。 つまり、\(c\boldsymbol{y}\) には \(V\) のベクトル \(c\boldsymbol{x}\) が存在して、 \[c\boldsymbol{y}=f(c\boldsymbol{x})\] となるということなので、\(c\boldsymbol{y}\)\(f(V)\) に属しています。

    以上から、\(f(V)\)\(W\) の部分空間であることがわかります。
    (証明終わり)

命題

\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) から \(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(W\) への線形写像 \(f\) に対して次の2つの条件は同値(まったく同じこと)です。

  1. \(f\)\(1:1\) の写像である。
  2. \(f^{-1}(\boldsymbol{0})=\{\boldsymbol{0}\}\) となっている。

証明

1.\(\Rightarrow\) 2. の証明
\(f\) がどんな線形写像でも\(f(\boldsymbol{0})=\boldsymbol{0}\) です。 また、 \(f\)\(1:1\) なので \(\boldsymbol{x}\neq\boldsymbol{0}\) ならば \(f(\boldsymbol{x})\neq f(\boldsymbol{0})\) が成り立ちます。 よって \(f(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{0}\) となるのは \(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) の場合だけです。 つまり、 \(f^{-1}(\boldsymbol{0})=\{\boldsymbol{0}\}\) が成り立ちます。

2.\(\Rightarrow\) 1.の証明
\(f(\boldsymbol{x})=f(\boldsymbol{y})\) とすると

\[ f(\boldsymbol{x})-f(\boldsymbol{y})=\boldsymbol{0} \]

となりさらに

\[ f(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y})=\boldsymbol{0} \]

が成り立ちます。 いま \(f^{-1}(\boldsymbol{0})=\{\boldsymbol{0}\}\) であるので、 \(f\)\(\boldsymbol{0}\) にうつされるのは \(\boldsymbol{0}\) だけです。 ですから

\[ \boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}=\boldsymbol{0} \]

ということになり

\[ \boldsymbol{x}=\boldsymbol{y} \]

であることがわかります。 つまり \(f\)\(1:1\) の写像です。
(証明終わり)

核の次元と像の次元の関係

\(V,W\)\(\mathbb{K}\) 上の有限次元の線形空間とし \(f\)\(V\) から \(W\) への線形写像 とします。

\[f:V \to W\]

\(f\) の核 \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\)\(V\) の部分空間で、 \(f\) の像 \(f(V)\)\(W\) の部分空間ですからどちらも線形空間の構造を持っていてそれぞれ次元を考えることができます。

\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\)\(f\) によって \(\boldsymbol{0}\) に潰されてしまう \(V\) のベクトルたちの集まりです。また、\(V\) の2つのベクトル \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) が、ある \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属するベクトルのぶんだけの違いしかないとき(つまり ある \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属するベクトル \(\boldsymbol{x}\) があって、\(\boldsymbol{b}-\boldsymbol{a} = \boldsymbol{x}\) となっているとき)、実は \(f\) によって \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) は 同じベクトルに移されることがわかります。(次の定理の後で補足します。)というわけで、\(f\) によって \(V\) は潰されていくことになり、\(f(V)\) の次元も \(V\) の次元より \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) の次元だけ小さくなるわけです。 このことをこれから、次の定理で線形空間の基底を使って証明することにします。

定理

\(V,W\)\(\mathbb{K}\) 上の有限次元の線形空間とし \(f\)\(V\) から \(W\) への線形写像とします。このとき

\[ \dim{V} = \dim{f(V)} + \dim{f^{-1}(\boldsymbol{0})} \]

が成り立ちます。

証明

\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) の次元を \(s\) とします。そして \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) の基底を \(\lt \boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s \gt\) とします。

\(\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s\) は一次独立な \(V\) のベクトルですが、さらに、これらの一次結合としてあらわせないような \(V\) のベクトルを次々に加えていくことにより \(V\) の基底を得ることができるのでした。そのようにして得られた \(V\) の基底を \(\lt \boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s, \boldsymbol{a}_{s+1},\ldots \boldsymbol{a}_m \gt\) とします。(\(V\) の次元を \(m\) と書くことにしたわけです。)

\(\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s\)\(f\) によって \(\boldsymbol{0}\) に潰されるベクトルたちです。

そこで次に、\(\boldsymbol{a}_{s+1},\ldots \boldsymbol{a}_m\)\(f\) によってどうなってしまうのかを考えてみると、実は、\(f(\boldsymbol{a}_{s+1}),\ldots, f(\boldsymbol{a}_m)\)\(f(V)\) の基底になることがわかります。このことをこれから確認してみることにしましょう。

\(\boldsymbol{y}\)\(f(V)\) に属しているベクトルとします。このとき、もちろん、ある \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) があって、\(\boldsymbol{y} = f(\boldsymbol{x})\) となっているわけですが、この \(\boldsymbol{x}\)\(V\) の基底によって、

\[ \boldsymbol{x} = c_1\boldsymbol{a}_1+\cdots+c_s\boldsymbol{a}_s+c_{s+1}\boldsymbol{a}_{s+1}+\cdots+c_m\boldsymbol{a}_m \]

とあらわすことができ、\(\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s\)\(f\) によって \(\boldsymbol{0}\) となることに注意すると

\[ \begin{align} \boldsymbol{y}&=f(\boldsymbol{x})\\ &=f(c_1\boldsymbol{a}_1+\cdots+c_s\boldsymbol{a}_s+c_{s+1}\boldsymbol{a}_{s+1}+\cdots+c_m\boldsymbol{a}_m)\\ &=c_1f(\boldsymbol{a}_1)+\cdots+c_sf(\boldsymbol{a}_s)+c_{s+1}f(\boldsymbol{a}_{s+1})+\cdots+c_mf(\boldsymbol{a}_m)\\ &=c_1\boldsymbol{0}+\cdots+c_s\boldsymbol{0}+c_{s+1}f(\boldsymbol{a}_{s+1})+\cdots+c_mf(\boldsymbol{a}_m)\\ &=c_{s+1}f(\boldsymbol{a}_{s+1})+\cdots+c_mf(\boldsymbol{a}_m)\\ \end{align} \]

となるので、\(f(V)\) のどんなベクトル \(\boldsymbol{y}\)\(f(\boldsymbol{a}_{s+1}),\ldots,f(\boldsymbol{a}_m)\) の一次結合としてあらわすことができるということがわかります。

また、 \(c_{s+1}f(\boldsymbol{a}_{s+1})+\cdots+c_mf(\boldsymbol{a}_m)=\boldsymbol{0}\) が成り立っているとしましょう。すると、

\[ f(c_{s+1}\boldsymbol{a}_{s+1}+\cdots+c_m\boldsymbol{a}_m)=\boldsymbol{0} \]

が成り立ちますから、\(c_{s+1}\boldsymbol{a}_{s+1}+\cdots+c_m\boldsymbol{a}_m\)\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属していることになり、\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) の基底 \(\lt \boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s \gt\) とスカラー \(c_1,\ldots,c_s\) を使って

\[ c_{s+1}\boldsymbol{a}_{s+1}+\cdots+c_m\boldsymbol{a}_m = c_1\boldsymbol{a}_1+\cdots+c_s\boldsymbol{a}_s \]

とあらわすことができることになります。この式は、

\[ -c_1\boldsymbol{a}_1-\cdots-c_s\boldsymbol{a}_s + c_{s+1}\boldsymbol{a}_{s+1}+\cdots+c_m\boldsymbol{a}_m = \boldsymbol{0} \]

と書き換えることができます。ところで、\(\lt \boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s, \boldsymbol{a}_{s+1},\ldots \boldsymbol{a}_m \gt\)\(V\) の基底なのですから、\(\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s, \boldsymbol{a}_{s+1},\ldots \boldsymbol{a}_m\) は特に一次独立です。ということは \(c_1,\ldots,c_s,c_{s+1},\ldots,c_m\) はすべて \(0\) ということになります。これで、\(c_{s+1}f(\boldsymbol{a}_{s+1})+\cdots+c_mf(\boldsymbol{a}_m)=\boldsymbol{0}\) が成り立っているとき、\(c_{s+1},\ldots,c_m\) はすべて \(0\) であるということになるので、\(f(\boldsymbol{a}_s),\ldots,f(\boldsymbol{a}_m)\) は一次独立であることがわかりました。

これで、\(\lt f(\boldsymbol{a}_s),\ldots,f(\boldsymbol{a}_m)\gt\)\(f(V)\) の基底となることが確認できました。

以上の議論から、

\(\lt \boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s, \boldsymbol{a}_{s+1},\ldots \boldsymbol{a}_m \gt\)\(V\) の基底、
\(\lt f(\boldsymbol{a}_{s+1}),\ldots f(\boldsymbol{a}_m) \gt\)\(f(V)\) の基底、
\(\lt \boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2,\ldots, \boldsymbol{a}_s \gt\)\(f^{-1}(V)\) の基底

となることがわかり、

\[ \dim{V} = \dim{f(V)} + \dim{f^{-1}(\boldsymbol{0})} \]

が成り立つことがわかります。
(証明終わり)

補足

\(V\) の2つのベクトル \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) が、ある \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属するベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して \(\boldsymbol{b}-\boldsymbol{a} = \boldsymbol{x}\) となっているとき、\(\boldsymbol{b} = \boldsymbol{a}+\boldsymbol{x}\) となるので、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{b}) &= f(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{x})\\ &=f(\boldsymbol{a})+f(\boldsymbol{x})\\ &=f(\boldsymbol{a})+\boldsymbol{0}\\ &=f(\boldsymbol{a}) \end{align}\]

が成り立ちます。つまり、\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) のぶんの違いしかない2つのベクトルは線形写像 \(f\) で同じベクトルへ写されるわけです。

また逆に、\(f\) によって同じベクトルに写されるような \(V\) の2つのベクトルは \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) のぶんの違いしかありません。つまり \(f(\boldsymbol{a})=f(\boldsymbol{b})\)であるとすると、

\[ \begin{align} \boldsymbol{0} &= f(\boldsymbol{b})-f(\boldsymbol{a})\\ &=f(\boldsymbol{b}-\boldsymbol{a}) \end{align} \]

となるわけで、\(\boldsymbol{b}-\boldsymbol{a}\)\(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) に属しているベクトルであるということになりますから、ある \(f^{-1}(\boldsymbol{0})\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) があって \[\boldsymbol{b}-\boldsymbol{a}=\boldsymbol{x}\] となっているといえるわけです。

線形変換

定義

\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の線形空間とします。 \(V\) から \(V\) 自身への線形写像を、\(V\)線形変換と呼びます。つまり、線形写像のうち、自分自身への写像は特に線形変換と呼ばれるわけです。

線形変換の積

\[ \begin{align} & f:V \to V\\ & g:V \to V\\ \end{align} \]

\(V\) の2つの線形変換とします。\(f,g\) どちらも \(V\) 自身への写像なので \(g\circ f\)\(f\circ g\) という合成写像をつくることができ、どちらも \(V\) から \(V\) への写像となります。 これらはそれぞれ \(f\)\(g\)

\[ \begin{align} g\circ f &:V \stackrel{f}{\to} V \stackrel{g}{\to} V\\ f\circ g &:V \stackrel{g}{\to} V \stackrel{f}{\to} V \end{align} \]

という順番で繋いで作られる写像であったことを思い出しましょう。

問題
ところで、これらは線形変換となるのでしょうか? つまり、\(g\circ f\)\(f\circ g\) は 和を保ったり、スカラー倍を保ったりするのでしょうか?

この問題の答えとなるのが次の命題です。

命題

\(f\)\(g\)\(V\) の線形変換とします。 このとき、合成写像 \(g\circ f\)\(f\circ g\) は線形変換になります。

証明

\(V\) の2つのベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) に対して、

\[ \begin{align} (g \circ f)(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}) &=g \left(f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})\right)\\ &= g \left(f(\boldsymbol{x})+f(\boldsymbol{y})\right)\\ &= g \left(f(\boldsymbol{x}))+g(f(\boldsymbol{y})\right))\\ &= (g \circ f)(\boldsymbol{x})+(g\circ f)(\boldsymbol{y}) \end{align} \]

が成り立ちます。つまり、\(g\circ f\) は和を保ちます。

\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\)\(\mathbb{K}\) に属するスカラー \(c\) に対して、

\[ \begin{align} (g \circ f)(c\boldsymbol{x}) &=g \left(f(c\boldsymbol{x})\right)\\ &= g \left(cf(\boldsymbol{x})\right)\\ &= c g \left(f(\boldsymbol{x}\right))\\ &= c \left(g \left(f(\boldsymbol{x})\right)\right)\\ &= c (g \circ f)(\boldsymbol{x})\\ \end{align} \]

が成り立ちます。つまり、\(g\circ f\) はスカラー倍を保ちます。

以上で、\(g\circ f\) は線形変換であることが確かめられました。

\(f\)\(g\) の役割を入れ替えれば \(f\circ g\) が線形変換であることもわかります。

恒等変換

定義

線形空間 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) (つまり自分自身)を対応させる \(V\) から \(V\) への写像を恒等変換といい、\(I_V\)\(id\) という記号であらわします。

恒等変換が線形変換になっていることはまあ明らかでしょう。

\(V\)\(n\) 次の数ベクトル空間(つまり \(V=\mathbb{K}^n\))とします。

\(n\) 次の単位行列 \(E_n=\left( \begin{array}{cccc} 1 & 0 & \ldots & 0 \\ 0 & 1 & \ldots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \ldots & 1 \end{array} \right)\) によって、\(V\) の各ベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対し行列の積を使い

\[ f(\boldsymbol{x})=E_n \boldsymbol{x} \]

として定義される線形変換 \(f\) は恒等変換 \(I_V\) に他なりません。

逆変換

定義

\(f\) を線形空間 \(V\) の線形変換とします。

\[ g\circ f= I_V,\: f\circ g= I_V \]

が成り立つ線形変換 \(g\) があるとき、\(g\)\(f\)逆変換といい、\(f^{-1}\) という記号であらわします。

\(n\) 次の数ベクトル空間 \(V\) (つまり \(V=\mathbb{K}^n\))の線形変換 \(f\) が、\(n\) 次の行列 \(A\) を用いて \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して行列の積を使い、 \[ f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x} \] となるものとして定義されているとします。 もし \(A\) が正則(つまり逆行列をもつ)なら、\(f\) には逆変換があります。 実際 \(A\) の逆行列 \(A^{-1}\) を用いて

\[ g(\boldsymbol{x})=A^{-1}\boldsymbol{x} \]

として定義される線形変換 \(g\) を考えると、行列の積は結合法則が成り立つので

\[ \begin{align} (g\circ f)(\boldsymbol{x})&=g(f(\boldsymbol{x}))\\ &=A^{-1}(A\boldsymbol{x})\\ &=(A^{-1}A)\boldsymbol{x}\\ &=E_n\boldsymbol{x}\\ &=\boldsymbol{x}\\ (f\circ g)(\boldsymbol{x})&=f(g(\boldsymbol{x}))\\ &=A(A^{-1}\boldsymbol{x})\\ &=(AA^{-1})\boldsymbol{x}\\ &=E_n\boldsymbol{x}\\ &=\boldsymbol{x}\\ \end{align} \]

が成り立ちます。ですから、

\[ f^{-1}(\boldsymbol{x}) = A^{-1}\boldsymbol{x} \]

であることがわかりました。

まとめ

\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) から \(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(W\) への写像 \(f\) があるとします。

任意の\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) と 任意の \(\mathbb{K}\) のスカラー \(c\) に対して

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{x} + \boldsymbol{y}) &= f(\boldsymbol{x}) + f(\boldsymbol{y})\\ f(c\boldsymbol{x})& =cf(\boldsymbol{x}) \end{align} \]

を満たすとき \(f\) は線形写像であるといいます。つまり、和とスカラー倍という2つの演算を保つ写像を線形写像というわけです。

線形写像は零ベクトルを零ベクトルへ写します。

線形写像 \(f\) によって \(V\) の異なるベクトルは \(W\) の異なるベクトルに対応し、\(f\) による対応で余ってしまう \(W\)ベクトルはないとき、\(f\) は同型写像であるといいます。この対応のもとで、\(V\)\(W\) は 線形空間として全く同じ構造を持っていると考えることができるので、\(V\)\(W\) は同型であるといいます。

\(V\)\(W\) がともに数ベクトルの空間のときは、ある行列を\(V\) のベクトルに左からかけるという決まりによって、 \(V\) から \(W\) への線形写像を作ることができます。 また、数ベクトルの空間から数ベクトルの空間への線形写像はこのようにして行列を使って作られるものしかありません。

\(f(\boldsymbol{x})= \boldsymbol{0}\) となる \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) をすべて集めてできる集合を \(f\) の核といいます。また、\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\)\(f\) で対応させることにより得られる \(W\) のベクトル \(f(\boldsymbol{x})\) をすべて集めてできる集合を \(f\) の像といいます。
\(f\) の核は \(V\) の線形部分空間となっていて、\(f\) の像は \(W\) の線形部分空間になっています。

\(f\)\(1:1\) の写像であるということと、\(f^{-1}(\boldsymbol{0})=\{\boldsymbol{0}\}\) となっているということは同じことです。

\(V\) の次元、\(f\) の像の次元、\(f\) の核の次元の間には \[ \dim{V} = \dim{f(V)} + \dim{f^{-1}(\boldsymbol{0})} \] という関係が成り立っています。

\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の線形空間とします。\(V\) から \(V\) 自身への線形写像を、\(V\) の線形変換と呼びます。

\(f,g\)\(V\) の2つの線形変換とすると、\(f,g\) どちらも \(V\) 自身への写像なので \(g\circ f\)\(f\circ g\) という合成写像をつくることができ、どちらも和とスカラー倍を保つので \(V\) から \(V\) への線形変換となります。

線形空間 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) (つまり自分自身)を対応させる \(V\) から \(V\) への写像を恒等変換といいます。

\(f\) を線形空間 \(V\) の線形変換とします。\(V\) の線形変換 \(g\) で、\(g\circ f\)\(f\circ g\) がともに恒等変換となるものがあるとき、\(g\)\(f\) の逆変換といいます。

線形部分空間(1) 線形写像の行列による表現(1)