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置換

2022-07-27

行列式を学ぶまえの準備として、ここでは、置換と呼ばれている、いくつかのものを並べ替える操作について考えます。

行列を行ベクトルまたは列ベクトルに区分けして考えて行や列の順番を並べ替えるという操作や、行列からあるやり方で成分を選ぶという操作などにおいて、その仕方を指定するために置換が使われます。そして、このような並べ替えを使うことにより行列式と呼ばれるものが定義されることになります。

置換とは

\(1,2,3,4,5\) という数の並びの並び替えについて考えてみることにします。

いま、ある決まり \(\sigma\) があって、それに従ってこれらを並べ替えた結果、\(4,3,5,2,1\)となったとします。そしてこの並べ替えの決まり \(\sigma\)

\[\sigma = \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ 4 & 3 & 5 & 2 & 1 \end{array}\right)\]

のようにあらわすことにします。

この \(\sigma\)

\(1\)\(4\) を対応させ、

\(2\)\(3\) を対応させ、

\(3\)\(5\) を対応させ、

\(4\)\(2\) を対応させ、

\(5\)\(1\) を対応させる

ということを行う決まりと考えることもできるので、集合 \(\{1,2,3,4,5\}\) から 集合 \(\{1,2,3,4,5\}\) への写像になっています。ですから、 \[\begin{align} \sigma(1)&=4\\ \sigma(2)&=3\\ \sigma(3)&=5\\ \sigma(4)&=2\\ \sigma(5)&=1 \end{align}\] と書くこともできます。

それでは、この例を頭に入れて置換と呼ばれるものを定義することにします。

定義

\(1,2,\cdots,n\) を並べ替える決まりのことを \(n\) 次の置換といいます。

いま、この決まりを \(\sigma\) という文字であらわすことにし、\(\sigma\) によって \(1,2,\cdots,n\) を並べ替えた結果が \(i_1,i_2,\cdots, i_n\) となっているとします。(もちろん \(i_1,i_2, \cdots, i_n\) はそれぞれ \(1,2,\cdots,n\) のいずれかでダブりはありません。) このようなとき \(\sigma\)

\[\sigma = \left(\begin{array}{cccc} 1 & 2 & \cdots & n\\ i_1 & i_2 & \cdots & i_n \end{array}\right)\]

のようにあらわします。

補足:置換を \(\sigma = \left(\begin{array}{cccc} 1 & 2 & \cdots & n\\ i_1 & i_2 & \cdots & i_n \end{array}\right)\) のようにあらわすとき、\(1,2\cdots\) などの上に行に並んでいるそれぞれの数の下にどんな数が来ているのかということだけが重要です。つまり、上の行は \(1,2,\cdots, n\) の順番でなくても構いません。 例えば、先の例では \[\sigma = \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ 4 & 3 & 5 & 2 & 1 \end{array}\right)\] と書いても良いですし \[\sigma = \left(\begin{array}{ccccc} 4 & 1 & 5 & 2 & 3\\ 2 & 4 & 1 & 3 & 5 \end{array}\right)\] と書いても良いわけです。

\(4\) 次の置換 \[\sigma = \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 3 & 4 & 2 & 1 \end{array}\right)\] について考えてみます。 この \(\sigma\)

\(1,2,3,4\) という数の並びを \(3,4,2,1\) の順に並び替える決まり

と考えても良いですし、

\(1\)\(3\) を対応させ、

\(2\)\(4\) を対応させ、

\(3\)\(2\) を対応させ、

\(4\)\(1\) を対応させる

というような決まりと考えることもできるので、集合 \(\{1,2,3,4\}\) から 集合 \(\{1,2,3,4\}\) への写像になっています。ですから、 \[\begin{align} \sigma(1)&=3\\ \sigma(2)&=4\\ \sigma(3)&=2\\ \sigma(4)&=1 \end{align}\] と書くこともできます。

置換を写像と考える場合の注意

\(n\) 次の置換は集合 \(\{1,2,\ldots,n\}\) から自分自身 \(\{1,2,\ldots,n\}\) への写像です。しかし、集合 \(\{1,2,\ldots,n\}\) から自分自身 \(\{1,2,\ldots,n\}\) へのすべての写像が置換と考えられるわけではありません。

たとえば、集合 \(\{1,2,3,4\}\) から自分自身 \(\{1,2,3,4\}\) への写像 \(\sigma\) として次のようなものを考えてみます。 \[\begin{align} \sigma(1)&=3\\ \sigma(2)&=4\\ \sigma(3)&=3\\ \sigma(4)&=1 \end{align}\]

つまり、

\(1\)\(3\) を対応させ、

\(2\)\(4\) を対応させ、

\(3\)\(3\) を対応させ、

\(4\)\(1\) を対応させる

という写像です。 この \(\sigma\) では \(\sigma(1)\)\(\sigma(3)\) はともに \(3\) になっています。つまり、\(1\)\(3\) にはどちらも \(3\) を対応させているわけです。しかしこれでは、\(\sigma\) を 「\(1,2,3,4\) の並べ替えを与える決まり」と考えることはできなくなります。

このことから想像出来るように、集合 \(\{1,2,\ldots,n\}\) から自分自身 \(\{1,2,\ldots,n\}\) への写像を置換として扱えるのは、その写像は対応が \(1:1\) になっていて、余ってしまうモノがないようになっているときだけです。

\(n\) 次の置換の個数

順列のことを思い出してみたり、樹形図を思い浮かべてみると、\(1,2,\cdots,n\) を並べ替える方法は \(n!\) 個あることがわかります。ですから \(n\) 次の置換の個数は \(n!\) です。

\(3\) 次の置換の個数は \(3!\) です。つまり \(6\) 個です。 全部書いてみると、

\[ \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 1 & 2 & 3 \end{array}\right),\quad \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 1 & 3 & 2 \end{array}\right),\quad \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 1 & 3 \end{array}\right),\quad \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 3 & 1 \end{array}\right),\quad \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 3 & 1 & 2 \end{array}\right),\quad \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 3 & 2 & 1 \end{array}\right) \]

となります。

特別な置換

恒等置換

まったく何も並べ替えずにそのままにする置換を恒等置換または単位置換といい、\(1_n\) という記号であらわします。 つまり、 \[1_n = \left(\begin{array}{cccc} 1 & 2 & \cdots & n\\ 1 & 2 & \cdots & n \end{array}\right)\] です。

互換

いずれか2つのみを交換して並べかえる置換を互換といいます。

\(1,2,\cdots,n\) のうちの \(i\)\(j\) を入れ替える互換は

\[ \left(\begin{array}{cccccccc} 1 & 2 & \cdots & i & \cdots & j & \cdots & n\\ 1 & 2 & \cdots & j & \cdots & i & \cdots & n\\ \end{array}\right)\]

です。文脈から次数が明らかなときは、これを簡単に、 \[\left(\begin{array}{cccccccc} i & j\\ j & i \end{array}\right)\] とか、さらに簡単に、 \[(i,j)\] 書くこともあります。

\(3\) 次の置換の置換のうち、互換をすべてみつけてみることにします。

\(1\)\(2\) を入れ替える互換は \[ \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 1 & 3 \end{array}\right) \] です。文脈から次数が明らかなときは、これを \[ \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 \\ 2 & 1 \end{array}\right) \]\[(1,2)\] と簡単にあらわすこともあります。

\(1\)\(3\) を入れ替える互換は \[ \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 3 & 2 & 1 \end{array}\right) \] です。文脈から次数が明らかなときは、これを \[ \left(\begin{array}{ccc} 1 & 3 \\ 3 & 1 \end{array}\right) \]\[(1,3)\] と簡単にあらわすこともあります。

\(2\)\(3\) を入れ替える互換は \[ \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 1 & 3 & 2 \end{array}\right) \] です。文脈から次数が明らかなときは、これを \[ \left(\begin{array}{ccc} 2 & 3 \\ 3 & 2 \end{array}\right) \]\[(2,3)\] と簡単にあらわすこともあります。

逆置換

\(\sigma\)\(1,2,\cdots,n\)\(i_1,i_2,\cdots, i_n\) に並べ替える置換のとき、もとに並べ直す置換を \(\sigma\)逆置換といい、\(\sigma^{-1}\) という記号であらわします。 つまり、

\[\sigma = \left(\begin{array}{cccc} 1 & 2 & \cdots & n\\ i_1 & i_2 & \cdots & i_n \end{array}\right)\]

のとき、

\[\sigma^{-1}= \left(\begin{array}{cccc} i_1 & i_2 & \cdots & i_n \\ 1 & 2 & \cdots & n\\ \end{array}\right)\]

となります。

\(\sigma = \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ 4 & 3 & 5 & 2 & 1 \end{array}\right)\) のとき、

\[ \sigma^{-1} = \left(\begin{array}{ccccc} 4 & 3 & 5 & 2 & 1\\ 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ \end{array}\right) = \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ 5 & 4 & 2 & 1 & 3 \end{array}\right) \]

となります。

置換の積

\(n\) 次の置換は \(\{1,2,\cdots,n\}\) から自分自身への写像と思うことができるわけですから、2つの \(n\) 次の置換 \(\sigma, \tau\) があるとそれらの合成写像を作ることができ、それも \(n\) 次の置換になります。 合成写像 \(\tau \circ \sigma\) は多くの場合、丸を省略して \(\tau\sigma\) と書かれます。 このように作られる \(\tau\sigma\)\(\sigma, \tau\)といいます。

注意:\(\tau\)\(\sigma\) を書く順番に注意してください。 \(\tau\sigma\) は、先に \(\sigma\)、後に \(\tau\) をおこなう写像です。 つまり、\(i \in \{1,2,\cdots,n\}\) に対して、 \[\tau\sigma(i)=\tau(\sigma(i))\] となっています。そして、\(\tau\sigma\)\(\sigma\tau\) は一般に違うものになります。

\(\sigma=\left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 1 & 3 & 2 \end{array}\right),\, \tau=\left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 3 & 2 & 1 \end{array}\right)\) とします。

まず \(\tau\sigma\) をつくってみます。

これは先に \(\sigma\)、 あとで \(\tau\) を行う合成写像であることに注意すると、

\[ \tau\sigma=\left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 3 & 2 & 1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 1 & 3 & 2 \end{array}\right) =\left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 3 & 1 & 2 \end{array}\right) \]

となることがわかります。念のため、絵解きをしておくと、 \[ \begin{align} &1\stackrel{\sigma}{\rightarrow}1\stackrel{\tau}{\rightarrow}3\\ &2\stackrel{\sigma}{\rightarrow}3\stackrel{\tau}{\rightarrow}1\\ &3\stackrel{\sigma}{\rightarrow}2\stackrel{\tau}{\rightarrow}2\\ \end{align} \] ということです。

次は \(\sigma\tau\) を作ってみます。

これは先に \(\tau\)、 あとで \(\sigma\) を行う合成写像であることに注意すると、

\[ \sigma\tau= \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 1 & 3 & 2 \end{array}\right) \left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 3 & 2 & 1 \end{array}\right) =\left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 3 & 1 \end{array}\right) \]

となることがわかります。念のため、絵解きをしておくと、 \[ \begin{align} &1\stackrel{\tau}{\rightarrow}3\stackrel{\sigma}{\rightarrow}2\\ &2\stackrel{\tau}{\rightarrow}2\stackrel{\sigma}{\rightarrow}3\\ &3\stackrel{\tau}{\rightarrow}1\stackrel{\sigma}{\rightarrow}1\\ \end{align} \] ということです。

この例では \(\tau\sigma\)\(\sigma\tau\) は違うものになっています。

補足:実は書籍によっては置換の積をここでの説明とは逆の順に書いている場合があります。そのような書籍で学ぶ場合はその説明の順ですべての式を理解し直す必要があります。

置換の積の性質

結合法則

3つの \(n\) 次の置換 \(\sigma, \tau, \rho\) があるとき \[(\sigma\tau)\rho = \sigma(\tau\rho) \] が成り立ちます。

このことは、一般に合成写像を作ることができる3つの写像 \(f,g,h\) に対して、(\(f\) が定義されている集合に属するどんな要素 \(x\) に対しても )

\[((f\circ g) \circ h)(x) =(f\circ g)(h(x))= f(g(h(x)))\] \[(f\circ (g \circ h))(x) =f((g\circ h)(x))= f(g(h(x)))\]

となるので、 \[(f\circ g) \circ h=f\circ (g \circ h)\] が成り立つことから理解できます。

恒等置換の性質

どんな \(n\) 次の置換 \(\sigma\) も、恒等置換 \(1_n\) との間に \[1_n \sigma = \sigma 1_n = \sigma\] が成り立ちます。

このことは、恒等置換は何も並べ替えない置換であることから理解できます。

逆置換の性質

どんな \(n\) 次の置換 \(\sigma\) も、その逆置換 \(\sigma^{-1}\) との間に \[\sigma \sigma^{-1}= \sigma^{-1} \sigma = 1_n\] が成り立ちます。

このことは、逆置換はもとの順に並べ直す置換であることから理解できます。

偶置換と奇置換

置換を2つの種類に分ける話をします。

転移数

置換 \(\sigma = \left(\begin{array}{cccc} 1 & 2 & \cdots & n\\ i_1 & i_2 & \cdots & i_n \end{array}\right)\) からどれか2つの列を取り出し \(\left(\begin{array}{c|c} s & t \\ i_s & i_t \end{array}\right)\) というように書いてみたとします。そして、 \(s \lt t\) ではあるが \(i_s \gt i_t\) となっていたとします。

このとき \(\sigma\)\((s,t)\) のところで転移が起きているといいます。つまり、上の段の2つの数の大小関係と下の段の2つの数の大小関係が逆になるところを転移の起きている場所というわけです。\(\sigma\) がもつ転移の数を \(\sigma\)転移数 といいます。

\(\sigma = \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ 4 & 3 & 5 & 2 & 1 \end{array}\right)\) という置換で転移の起きているところを調べてみることにします。

まず、\(1\) 列目と \(2\) 列目を取り出すと \[ \left(\begin{array}{c|c} 1 & 2 \\ 4 & 3 \end{array}\right) \quad\rightarrow\quad \begin{array}{c} 1 \lt 2\\ \color{red}{4 \gt 3} \end{array} \] となり、上の段と下の段の大小関係が逆になっています。つまり、\((1,2)\) のところで転移が起きているわけです。

次に \(1\) 列目と \(3\) 列目を取り出すと \[ \left(\begin{array}{c|c} 1 & 3 \\ 4 & 5 \end{array}\right) \quad\rightarrow\quad \begin{array}{c} 1 \lt 3\\ 4 \lt 5 \end{array} \] となり、上の段と下の段の大小関係は逆になっていません。つまり、\((1,3)\) のところでは転移が起きていません。

今度は \(1\) 列目と \(3\) 列目を取り出すと \[ \left(\begin{array}{c|c} 1 & 4 \\ 4 & 2 \end{array}\right) \quad\rightarrow\quad \begin{array}{c} 1 \lt 4\\ \color{red}{4 \gt 2} \end{array} \] となり、上の段と下の段の大小関係が逆になっています。つまり、\((1,4)\) のところで転移が起きています。

以下同様に、すべての2つの列の組み合わせに対してもれなく調べていくと、転移は

\[ \left(\begin{array}{c|c} 1 & 2 \\ 4 & 3 \end{array}\right),\, \left(\begin{array}{c|c} 1 & 4 \\ 4 & 2 \end{array}\right),\, \left(\begin{array}{c|c} 1 &5 \\ 4 & 1 \end{array}\right),\, \left(\begin{array}{c|c} 2 & 4 \\ 3 & 2 \end{array}\right),\, \left(\begin{array}{c|c} 2 & 5 \\ 3 & 1 \end{array}\right),\, \left(\begin{array}{c|c} 3 & 5 \\ 5 & 1 \end{array}\right),\, \left(\begin{array}{c|c} 4 & 5 \\ 2 & 1 \end{array}\right) \]

\(7\) 箇所であることがわかります。ですから \(\sigma\) の転移数は \(7\) です。

偶置換と奇置換

転移数が偶数の置換を偶置換といい、転移数が奇数の置換を奇置換といいます。

互換は奇置換

\(8\) 次の置換のうち、\(3\)\(7\) を入れ替える互換 \((3,7)\) は偶置換なのか奇置換なの考えてみることにしましょう。まず、わかりやすくするためにこの互換の \(3\) 列と \(7\) 列の両側に縦の線を入れて

\[ \begin{align} (3,7)&=\left(\begin{array}{cc|c|ccc|c|c} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 & 8\\ 1 & 2 & 7 & 4 & 5 & 6 & 3 & 8 \end{array}\right)\\ & \,\,\,\,\, \small \text{第} 1 \text{ブロック}\,|\, 3 \text{列} |\,\,\, \text{第} 2 \text{ブロック}\,\,\,|\, 7 \text{列} \, |\, \text{第} 3 \text{ブロック} \end{align} \]

のようにブロック分けしてみます。そしてどれだけ転移があるのかを調べていくことにします。このブロック分けを使って、2つの列の選び方をいくつかのパターンに分けて考えてみます。

  • 同じブロックの中からある2列を選ぶ場合
    この場合転移はありません。

  • \(1\) ブロックからある1列と、 \(3\) 列を選ぶ場合
    この場合転移はありません。

  • \(1\) ブロックからある1列と、 第 \(2\) ブロックからある1列を選ぶ場合
    この場合転移はありません。

  • \(1\) ブロックからある1列と、 \(7\) 列を選ぶ場合
    この場合転移はありません。

  • \(1\) ブロックからある1列と、 第 \(3\) ブロックからある1列を選ぶ場合
    この場合転移はありません。

  • \(3\) 列と、第 \(2\) ブロックからある1列を選ぶ場合
    この場合必ず転移があります。第 \(2\) ブロックからの選び方は3通りですから、\(3\) 個の転移が見つかったことになります。

  • \(3\) 列と、第 \(7\) 列を選ぶ場合
    これは転移です。ですから \(1\) 個の転移が見つかったことになります。

  • \(3\) 列と、第 \(3\) ブロックからある1列を選ぶ場合
    この場合転移はありません。

  • \(2\) ブロックからある1列と、 \(7\) 列を選ぶ場合
    この場合必ず転移があります。第 \(2\) ブロックからの選び方は3通りですから、\(3\) 個の転移が見つかったことになります。

  • \(2\) ブロックからある1列と、 第 \(3\) ブロックからある1列を選ぶ場合
    この場合転移はありません。

  • \(7\) 列と、第 \(3\) ブロックからある1列を選ぶ場合 この場合転移はありません。

以上ですべて調べることができています。そして全部で \[3+1+3=7 \, \text{(個)}\] の転移があることがわかります。つまりこの互換は奇置換です。

ではこの例を参考にして、もっと一般に、\(s\)\(s+k\) を入れ替える \(n\) 次の互換 \((s, s+k)\) について転移数を調べてみることにしましょう。この互換を

\[ \begin{align} &(s, s+k)\\ &= \left(\begin{array}{ccc|c|ccc|c|ccc} 1 & \cdots & s-1 & s & s+1 & \cdots & s+k-1 & s+k & s+k+1 &\cdots & n\\ 1 & \cdots & s-1 & s+k& s+1 & \cdots & s+k-1 & s & s+k+1 &\cdots & n\\ \end{array}\right)\\ &\quad\quad\quad\, \text{第}\,1\,\text{ブロック} \,\,\,\,|\,\,\,\,\, s \,\text{列} \,\,\,\,| \qquad \quad \,\,\text{第}\,2\,\text{ブロック}\qquad \,\, | s+k \,\text{列} |\qquad \text{第}\, 3\,\text{ブロック}\\ \end{align} \]

のようにブロック分けをして前の例題と同じように考えれば、転移が起きるのは

  • \(s\) 列と \(s+k\) 列を選んだ場合・・・ \(1\) ヶ所
  • \(s\) 列と、第 \(2\) ブロックからある1列を選んだ場合・・・ \(k-1\) ヶ所
  • \(s+k\) 列と、 第 \(2\) ブロックからある1列を選んだ場合・・・ \(k-1\) ヶ所

であることがわかります。

ですから、転移数は \(2(k-1)+1\) となり、これは奇数です。 よって、どんな互換も奇置換であるということがわかりました。

置換の符号

それぞれの置換 \(\sigma\) に対して、\(1\) または \(-1\) のどちらかの値をあらわす数 \(\mathrm{sgn}(\sigma)\) を次のように決めることにします。

\[\mathrm{sgn}(\sigma)=\begin{cases} 1 & (\sigma\, \text{が偶置換のとき})\\ -1 & (\sigma\, \text{が奇置換のとき})\\ \end{cases} \]

そして \(\mathrm{sgn}(\sigma)\)\(\sigma\)符号と呼ばれます。

\(\sigma\) の転移数が偶数なら \(\mathrm{sgn}(\sigma) =1\)、奇数なら \(\mathrm{sgn}(\sigma) =-1\) ということになります。

置換の積と符号の性質

置換 \(\sigma, \tau\) に対して \[\mathrm{sgn}(\tau\sigma)=\mathrm{sgn}(\tau)\mathrm{sgn}(\sigma)\] が成り立ちます。つまり、置換の積の符号はそれぞれの置換の符号の積に等しいと言っているわけです。

これから証明を行いますが、まず、準備をします。

転移数の偶奇を判定する多項式

置換を「何か」にあるやり方で「作用」させたとき、偶置換を作用させるとそのままになり、奇置換を作用させると \(-1\) 倍されるような「何か」があれば、転移数の偶奇を判定するために使うことができます。

このような「何か」としてよく知られているものに、次に説明する差積と呼ばれる多項式があり、ここでは \(\Delta\) であらわすことにします。 \(n\) 変数の差積とは

\[ \begin{array}{r}\Delta(x_1, \ldots ,x_n)=(x_1-x_2)(x_1-x_3)\cdots(x_1-x_{n-1})(x_1-x_n)\\ (x_2-x_3)\cdots(x_2-x_{n-1})(x_2-x_n)\\ \cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\\ \cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\\ (x_{n-2}-x_{n-1})(x_{n-2}-x_n)\\ (x_{n-1}-x_n)\\ \end{array} \]

という形をしている変数 \(x_1,x_2, \ldots ,x_n\) の多項式のことです。 これは、\(s \lt t\) となるすべての組 \((s,t)\) について \((x_s-x_t)\) を作り、それらすべてを掛けてできる多項式です。

ところで一般に、変数 \(x_1,x_2, \ldots ,x_n\) の多項式 \(f(x_1,x_2,\ldots, x_n)\) があると、\(n\) 次の置換 \(\sigma\) を変数の並べ替えにより「作用」させることができます。 どういうことかというと、ここでは \(f\)\(\sigma\) を「作用」させてできる新しい多項式を \(\sigma f\) と書くことにしますが、

\[(\sigma f)( x_1,x_2,\ldots, x_n)=f(x_{\sigma(1)},x_{\sigma(2)},\ldots, x_{\sigma(n)})\]

と定めるわけです。次に例を示します。

変数 \(x_1,x_2, x_3\) の多項式 \[f(x_1,x_2, x_3)=-x_1+2x_2-x_3\]\(3\) 次の置換 \[\sigma=\left(\begin{array}{ccc}1 & 2 & 3\\2 & 3 & 1\end{array}\right)\] に対して \(\sigma\)\(f\) に作用させてできる多項式 \(\sigma f\) を作ってみたいと思います。

\(\sigma\) に従って文字の入れ替えを行うと、 \[x_1 \rightarrow x_2,\,x_2 \rightarrow x_3,\,x_3 \rightarrow x_1\] となります。ですから

もともと \(x_1\) があったところを \(x_2\) に書き換え、

もともと \(x_2\) があったところを \(x_3\) に書き換え、

もともと \(x_3\) があったところを \(x_1\) に書き換える

ということになります。その結果 \(\sigma f\)

\[(\sigma f)(x_1,x_2,x_3)= -x_2+2x_3-x_1\]

という多項式になります。

この例で、多項式に置換を作用させるということの意味がわかったと思います。

それでは次に、\(n\) 次の差積 \(\Delta\)\(n\) 次の置換 \(\sigma\) を作用させてみることにしましょう。

\(\sigma\) に従って変数の入れ替えを行うと、

\[x_1 \rightarrow x_{\sigma(1)},\,x_2 \rightarrow x_{\sigma(2)},\,\cdots, \,\,x_n \rightarrow x_{\sigma(n)}\]

となります。その結果、差積のそれぞれの因数は \[ (x_s-x_t) \rightarrow (x_{\sigma(s)}-x_{\sigma(t)}) \tag{1} \] のように書き換えられます。

ところで差積には \(s \lt t\) となるすべての組合せ \((s,t)\) に対して因数 \((x_s-x_t)\) があります。

\(\sigma\)\({1,2,\ldots,n}\) の並べ替えですから、(1) 式の対応により $(x_s-x_t) $ から得られる\((x_{\sigma(s)}-x_{\sigma(t)})\) は、\(\sigma\)\((s,t)\) で転移を起こしていなければ差積の因数のどれかそのものになり、\(\sigma\)\((s,t)\) で転移を起こしていれば差積の因数のどれかを\(-1\) 倍したものになります。

また、(1} 式の対応では、\((s,t)\neq (u,v)\) ならば、\((x_{\sigma(s)}-x_{\sigma(t)})\)\((x_{\sigma(u)}-x_{\sigma(v)})\) は異なった因数になります。

さらに、どの因数 \((x_s-x_t)\) にも必ず \((x_{\sigma^{-1}(s)}-x_{\sigma^{-1}(t)})\) があります。 ですから、\((x_{\sigma^{-1}(s)}-x_{\sigma^{-1}(t)})\) は (1) 式の対応で、必ず \((x_s-x_t)\) に対応づけられます。

以上のことを考えに入れると、

\[\sigma \Delta =(-1)^r\Delta, \,\,\text{ただしここで} \,r\, \text{は}\,\sigma\, \text{の転移数}\]

が成り立つことがわかります。そして特に \(\sigma\) の転移数が偶数、つまり偶置換なら \[\sigma \Delta = \Delta\] \(\sigma\) の転移数が奇数、つまり奇置換なら \[\sigma \Delta = -\Delta\] が成り立ちます。

前に導入した置換の符号をあらわす記号を使うと、

\[\sigma\Delta=\mathrm{sgn}(\sigma)\Delta\] とあらわすこともできます。

以上で、差積 \(\Delta\) は置換の偶奇を判定する能力を持っていることがわかりました。置換 \(\sigma\) を差積 \(\Delta\) に作用させたとき、 \(1\) 倍されれば \(\sigma\) は偶置換で \(-1\) 倍されれば奇置換であるといえるわけです。

置換の積の多項式への作用

変数 \(x_1,\ldots,x_n\) の多項式 \(f\) に、2つの置換 \(\sigma,\tau\) を、始めに \(\sigma\)、次に \(\tau\) の順で作用させることにより得られる多項式 \(\tau(\sigma f)\) について考えてみます。

\(\sigma f\)\(s=1,2,\cdots,n\) すべてについて、 \(f\)\(x_s\)\(x_{\sigma(s)}\) に書き換えてできる多項式です。

\(\tau(\sigma f)\) は、 \(t=1,2,\cdots,n\) すべてについて、\(\sigma f\)\(x_t\)\(x_{\tau(t)}\) に書き換えてできる多項式です。

ところで \(\sigma f\)\(x_t\)\(x_{\sigma(1)},\ldots,x_{\sigma(n)}\) のどれかですが、いま \(x_t =x_{\sigma(s)}\) であるとします。 そうすると、\(t=\sigma(s)\) なので、 \(\tau(\sigma f)\) は、 \(s=1,2,\cdots,n\) すべてについて、 \(f\)\(x_s\)\(x_{\tau(\sigma(s))}\) に書き換えてできる多項式であるということになります。

ここで置換の積の定義を思い出すと、\((\tau\sigma)(s)=\tau(\sigma(s))\) が成り立っているので、 \(\tau(\sigma f)\) は、 \(s=1,2,\cdots,n\) すべてについて、 \(f\)\(x_s\)\(x_{(\tau\sigma)(s)}\) に書き換えてできる多項式であるということになり、これは \((\tau\sigma)f\) そのものです。 つまり、 \[\tau(\sigma f) = (\tau\sigma)f\] であることがわかりました。

置換の積と符号の性質の証明

本題に入ります。

命題

置換 \(\sigma, \tau\) に対して \[\mathrm{sgn}(\tau\sigma)=\mathrm{sgn}(\tau)\mathrm{sgn}(\sigma)\] が成り立ちます。

証明

差積 \(\Delta\) に対して、 \[(\tau\sigma)\Delta=\tau(\sigma\Delta)\] が成り立ちます。

ところで、この式の左辺に関して

\[ (\tau\sigma)\Delta=\mathrm{sgn}(\tau\sigma)\Delta,\\ \] が成り立ち、右辺に関して

\[\begin{align} \tau(\sigma\Delta)&=\tau(\mathrm{sgn}(\sigma)\Delta)\\ &=\mathrm{sgn}(\tau)\mathrm{sgn}(\sigma)\Delta \end{align} \] が成り立ちます。

これらより、 \[\mathrm{sgn}(\tau\sigma)=\mathrm{sgn}(\tau)\mathrm{sgn}(\sigma)\] が成り立つことがわかります。
(証明終わり)

互換だけの積ですべての置換が作れるということ

実はどんな置換もいくつかの互換の積として作ることができます。このことは、互換は2つを入れ替える操作であるということと、頑張って適切に2つの入れ替えを繰り返せばどんな並び替えも実現できそうだということから真実であるように思えます。ですが、念のため例を使って説明を加えておきましょう。 そのために、まず言葉と記号を準備しておきます。

巡回置換

\(1,2,\ldots,n\) の一部分または全部を選んだものを \(a_1,a_2,\cdots\, a_k\) とあらわしておきます。

置換 \(\sigma\)

\[\begin{array}{lcl} a_1 & \rightarrow & a_2\\ a_2 & \rightarrow & a_3\\ &\vdots&\\ a_{k-1} & \rightarrow & a_k\\ a_k & \rightarrow & a_1\\ \end{array}\]

という並べ替えを行い、それ以外は全く並べ替えを行わないとき、\(\sigma\)巡回置換であるといいます。このような置換では並べ替えを行わないところを省略して書いて、

\[\left(\begin{array}{cccccc} a_1 & a_2 & \cdots & a_{k-1} & a_k\\ a_2 & a_3 & \cdots & a_k & a_1\\ \end{array}\right)\]

とあらわしたり、さらに簡単に、 \[\left(\begin{array}{cccc} a_1 & a_2 & \cdots & a_{k-1} & a_k\\ \end{array}\right)\] とあらわしたりします。

\(\left(\begin{array}{cccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6\\ 4 & 2 & 3 & 6 & 1 & 5 \end{array}\right)\) という置換では、 \[\begin{align} &1 \rightarrow 4\\ &4 \rightarrow 6\\ &6 \rightarrow 5\\ &5\rightarrow 1\\ \end{align}\] という並べ替えが行われ、それ以外は全く並べ替えが行わなれません。 ですからこれは巡回置換です。 この置換は、 \[\left(\begin{array}{cccc} 1 & 4 & 5 & 6\\ 4 & 6 & 1 & 5 \end{array}\right)\] とあらわしたり、さらに簡単に、 \[\left(\begin{array}{cccc} 1 & 4 & 6 & 5 & 1\\ \end{array}\right)\] とあらわしたりすることができます。

補足:互換は巡回置換の特別なものと考えることができます。

置換を巡回置換の積であらわす

命題

どんな置換もいくつかの巡回置換の積であらわすことができます。

例を見てみることにしましょう。

\(\left(\begin{array}{cccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6\\ 4 & 3 & 2 & 6 & 5 & 1 \end{array}\right)\) という置換について調べます。 この置換をよく見ると \[1 \rightarrow 4,\,4 \rightarrow 6,\,6 \rightarrow 1\] という並べ替えをしていて、\(1,4,6\) は閉じたグループを作っています。 また、 \[2 \rightarrow 3,\,3 \rightarrow 2\] という並べ替えをしていて、\(1,2\) は閉じたグループを作っています。 そして、 \[5 \rightarrow 5\] という、何もしない並べ替えをしていて、\(5\) は閉じたグループを作っています。 このことから、

\[\left(\begin{array}{cccccc} \color{red}1 & \color{blue}2 & \color{blue}3 & \color{red}4 & \color{green}5 & \color{red}6\\ \color{red}4 & \color{blue}3 & \color{blue}2 & \color{red}6 & \color{green}5 & \color{red}1 \end{array}\right) =\left(\begin{array}{ccc} \color{red}1 & \color{red}4 & \color{red}6 \\ \end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} \color{blue}2 & \color{blue}3 \\ \end{array}\right)(\color{green}5) \]

となり、巡回置換の積であらわせることがわかります。

この例に限らず、一般にもこのようなことができるのはほぼ明らかと言って良いでしょう。

巡回置換を互換並べ替えをしての積としてあらわす

命題

どんな巡回置換もいくつかの互換の積であらわすことができます。実際、

\[\left(\begin{array}{cccc} a_1 & a_2 & \cdots & a_{k-1} & a_k\\ \end{array}\right)=(a_1\,a_k)(a_1\,a_{k-1})\cdots(a_1\,a_3)(a_1\,a_2)\]

となることがわかります。

証明

この式の右辺を詳しく分析してみることにします。

互換の積は(ここでは)左から順に実行されるとしていることに注意して各 \(a_i\,\,(i=1,2,\ldots,n)\) が何に対応させられるか追跡してみると、

\[ \begin{array}{cccccccc} & \small(a_1\,a_2) & & \small(a_1\,a_3) & & \small(a_1\,a_4) & & \small(a_1\,a_5) & & \cdots & & \small(a_1\,a_k) & &\\ a_1 & \rightarrow & a_2\\ a_2 & \rightarrow & a_1 & \rightarrow & a_3 \\ a_3 & \rightarrow & a_3 & \rightarrow & a_1 & \rightarrow & a_4 \\ a_4 & \rightarrow & a_4 & \rightarrow & a_4 & \rightarrow & a_1 & \rightarrow & a_5\\ \vdots\\ a_k & \rightarrow & a_k & \rightarrow & a_k & \rightarrow & a_k & \rightarrow & a_k & \cdots & a_k & \rightarrow & a_1 \end{array} \]

のようになることがわかります。つまり、\(a_k\) 以外の \(a_i\) は当面そのままでいたあと、あるとき一度互換 \((a_1\,a_i)\) によって \(a_1\) に対応させられ、そして直ちに互換 \((a_1\,a_{i+1})\) によって \(a_{i+1}\) に対応させられます。また、\(a_k\) はずっとそのままですが、最後に互換 \((a_1\,a_k)\) によって \(a_1\) に対応させられるわけです。これで右辺の互換の積は左辺の巡回置換に等しくなっていることがわかりました。
(証明終わり)

任意の置換を互換の積としてあらわす

以上述べてきたことを考えに入れると、どんな置換もいくつかの互換の積としてあらわされることがわかります。なぜなら、置換は巡回置換の積であらわすことができ、巡回置換は互換の積であらわすことができるからです。

ただし、一般にそのようなあらわし方は複数あります。

\(\left(\begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3\\ 3 & 1 & 2 \end{array}\right)\) を互換の積であらわすとき、

\[\left(\begin{array}{ccc} 1 &2 & 3\\ 3 & 1 & 2 \end{array}\right)=(1 \, 2)(1\,3 )=(2 \, 3)(1\,2) =(1 \,3)(2\,3)\]

のように異なった複数のあらわし方があります。

命題

置換を互換の積であらわすとき、偶置換は必ず偶数個の互換の積となり、奇置換は必ず奇数個の互換の積になります。

証明

置換 \(\sigma\)\(k\) 個の互換 \(\rho_1,\rho_2, \ldots ,\rho_k\) の積として、

\[\sigma =\rho_1\rho_2, \ldots ,\rho_k\]

とあらわしたとき

\[\mathrm{sgn}(\sigma) = \mathrm{sgn}(\rho_1)\mathrm{sgn}(\rho_2)\cdots\mathrm{sgn}(\rho_k)=(-1)^k\]

が成り立ちます。

\(\sigma\) が偶置換ならば \(\mathrm{sgn}(\sigma)=1\) なので \(k\) は偶数です。 \(\sigma\) が奇置換ならば \(\mathrm{sgn}(\sigma)=-1\) なので \(k\) は奇数です。
(証明終わり)

まとめ

\(1,2,\cdots,n\) を並べ替える決まりのことを \(n\) 次の置換といいます。

同じ次数の2つの置換には積と呼ばれる演算を定義することができます。

置換は符号と呼ばれる数を持っています。

置換は2つの種類に分けることができ、それぞれ偶置換、奇置換と呼ばれます。

偶置換の符号は \(1\) で、奇置換の符号は \(-1\) です。

\(1,2,\cdots,n\) のうちある2つだけを入れ替える置換を互換といいます。

どんな置換も互換の積であらわすことができます。しかし、あらわし方は一通りではありません。

偶置換は必ず偶数個の互換の積としてあらわされ、奇置換は必ず奇数個の互換の積であらわされます。

数ベクトルの空間の計量 $\sum$ 記号の使い方