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数ベクトルとその演算

2022-05-04

数ベクトル

\(n\) 個の数 \(a_1,a_2,\cdots,a_n\) があるとします。 これらの数をこの順に縦に一列に並べ、カッコで囲ったものを \(n\) 次元の数ベクトルといい、次のようにあらわします。

\[ \left( \begin{array}{c} a_1\\ a_2\\ \vdots\\ a_n \end{array} \right) \]

この数ベクトルをあらわすのに、アルファベット一文字で 「ベクトル \(a\)」というような名前をつけることもありますが、ベクトルであるということを強調するために 、よく次のように、太文字にして \(\boldsymbol{a}\) とあらわします。

\[ \boldsymbol{a} = \left( \begin{array}{c} a_1\\ a_2\\ \vdots\\ a_n \end{array} \right) \]

このベクトル \(\boldsymbol{a}\) において、それぞれの数 \(a_1,a_2,\cdots,a_n\) を、\(\boldsymbol{a}\) の第 \(1\) 成分、第 \(2\) 成分、…、第 \(n\) 成分といいます。

\(\boldsymbol{a} = \left( \begin{array}{r} 5\\ -3\\ 2\\ -1 \end{array} \right)\)\(4\) 次元の数ベクトルで、第 \(1\) 成分は \(5\)、第 \(2\) 成分は \(-3\)、第 \(3\) 成分は \(2\)、 第 \(4\) 成分は \(-1\)です。

ベクトルの成分がすべて実数であるものを実ベクトル、ベクトルの成分の一部またはすべてが虚数であるものを複素ベクトルといいます。 ただし、任意の実数 \(x\) は 複素数 \(x+0i\) と同じものと考えることができますから、成分がすべて実数のベクトルも複素ベクトルと思うことができます。

\[\boldsymbol{a} = \left( \begin{array}{r} 5\\ -\sqrt{2}\\ -\frac{2}{7}\\ -1 \end{array} \right),\quad \boldsymbol{b} = \left( \begin{array}{c} 5\\ -3+2i\\ 2\\ -1-4i \end{array} \right),\quad \boldsymbol{c} = \left( \begin{array}{c} 5-2i\\ -3+2i\\ 2-\frac25i\\ -1-7i \end{array} \right)\]

という4つの数ベクトルでは \(\boldsymbol{a}\) は実ベクトル、\(\boldsymbol{b}\) は複素ベクトル、\(\boldsymbol{c}\) は複素ベクトルです。

ベクトルの演算

とりあえずここでは、数ベクトルとして実ベクトルだけを考えることにします。 \(n\) 次元数ベクトルをすべて集めてできる集合を \(\mathbb{R}^n\) であらわすことにし、(実数上の)数ベクトルの空間といいます。

\(\mathbb{R}^n\) には「加法」と「スカラー倍」と呼ばれる演算を定義することができます。

加法:2つの数ベクトルの和とは…

同じ次元(ここでは \(n\) 次元とします)の数ベクトル \(\boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{c} a_1\\ a_2\\ \vdots\\ a_n \end{array} \right),\boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{c} b_1\\ b_2\\ \vdots\\ b_n \end{array} \right)\) があるとします。

\(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) の和と呼ばれる \(n\) 次元ベクトルを次のようにして作り、\(\boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}\) という記号であらわします。

\[ \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}= \left( \begin{array}{c} a_1+b_1\\ a_2+b_2\\ \vdots\\ a_n+b_n \end{array} \right) \] つまり、対応している各成分ごとに足したベクトルをつくるわけです。

\(\boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{r} 3\\ -4\\ 1 \end{array} \right), \boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{r} 5\\ 9\\ -6 \end{array} \right)\) のとき、

\[ \begin{eqnarray} \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b} &=& \left( \begin{array}{r} 3\\ -4\\ 1 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{r} 5\\ 9\\ -6 \end{array} \right)\\ &=& \left( \begin{array}{r} 3+5\\ -4+9\\ 1-6 \end{array} \right)\\ &=& \left( \begin{array}{r} 8\\ 5\\ -5 \end{array} \right) \end{eqnarray} \] となります。

スカラー倍:あるベクトルをなんとか倍するとは…

\(n\) 次元の数ベクトル \(\boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{c} a_1\\ a_2\\ \vdots\\ a_n \end{array} \right)\) と数 \(r\) があるとします。

\(\boldsymbol{a}\)\(r\) 倍と呼ばれる \(n\) 次元ベクトルを次のようにして作り、\(r\boldsymbol{a}\) という記号であらわします。

\[ r\boldsymbol{ a } = \left( \begin{array}{c} ra_1\\ ra_2\\ \vdots\\ ra_n \end{array} \right) \] つまり、各成分を\(r\) 倍した数ベクトルをつくるわけです。

\(\boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{r} 3\\ -4\\ 1 \end{array} \right),r=5\) のとき、

\[ \begin{eqnarray} 5\boldsymbol{a} &=& 5\left( \begin{array}{r} 3\\ -4\\ 1 \end{array} \right)\\ &=& \left( \begin{array}{r} 5\times3\\ 5\times(-4)\\ 5\times1 \end{array} \right)\\ &=& \left( \begin{array}{r} 15\\ -20\\ 5 \end{array} \right) \end{eqnarray} \] となります。

以上で説明されたようにして \(\mathbb{R}^n\) は 「加法」と「スカラー倍」という演算をもった集合となります。

零ベクトルと逆ベクトル

成分がすべて \(0\) である数ベクトルを零ベクトルといい、記号 \(\boldsymbol{0}\) であらわします。

\[ \boldsymbol{0}=\left( \begin{array}{c} 0\\ 0\\ \vdots\\ 0 \end{array} \right) \]

あるベクトル \(\boldsymbol{a}\)\(-1\) 倍してできるベクトル \(-1\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{a}\)逆ベクトル といい、\(-\boldsymbol{a}\) であらわします。

つまり、\(\boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{c} a_1\\ a_2\\ \vdots\\ a_n \end{array} \right)\) のとき、\(\boldsymbol{a}\) の逆ベクトル \(-\boldsymbol{a}\)\[ -\boldsymbol{a} = -1\boldsymbol{a} = \left( \begin{array}{c} -a_1\\ -a_2\\ \vdots\\ -a_n \end{array} \right) \] となります。

補足:ベクトルの空間には直接的には、\(\boldsymbol{a}-\boldsymbol{b}\) というような「減法」は定義されていません。
しかし、加法とスカラー倍を使って \(\boldsymbol{a} + (-\boldsymbol{b})\) というものを作れるようになっているので、これを \(\boldsymbol{a}-\boldsymbol{b}\) と思うことにすれば、「減法」を扱えるようになるわけです。

加法とスカラー倍が持つ性質

加法については以下の法則が成り立ちます。

\[ \begin{align} &\boldsymbol{a} + \boldsymbol{b} = \boldsymbol{b}+\boldsymbol{a} \\ &(\boldsymbol{a} + \boldsymbol{b} ) + \boldsymbol{c} = \boldsymbol{a}+(\boldsymbol{b} + \boldsymbol{c}) \\ &\boldsymbol{a} + \boldsymbol{0} = \boldsymbol{a}\\ &\boldsymbol{a} + (-\boldsymbol{a}) = \boldsymbol{0} \end{align} \]

スカラー倍については以下の法則が成り立ちます。
\[ \begin{align} &r(\boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}) = r\boldsymbol{a} + r\boldsymbol{b}\\ &(r+s)\boldsymbol{a} = r \boldsymbol{a} + s \boldsymbol{a}\\ &(rs)\boldsymbol{a} = r(s\boldsymbol{a})\\ &1\boldsymbol{a} = \boldsymbol{a} \end{align} \]

これらの法則は、定義に従って成分の計算をすることにより簡単に確かめることができます。

たとえば、
\[(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}) + \boldsymbol{c} = \boldsymbol{a}+(\boldsymbol{b} + \boldsymbol{c}) \]
という法則について考えてみましょう。

これは、

さきに \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) の和を作ってから次にそれと \(\boldsymbol{c}\) との和を作ったもの

と、

さきに \(\boldsymbol{b}\)\(\boldsymbol{c}\) の和を作ってから次に \(\boldsymbol{a}\) とそれの和を作ったもの

が等しくなると主張する法則ですが、この主張が正しいことは次のように計算で確かめることができます。

\[\boldsymbol{a}=\left(\begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array}\right),\, \boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{array}\right),\, \boldsymbol{c}=\left( \begin{array}{c} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{array}\right) \] とおくと、

\[ \begin{eqnarray} (\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}) + \boldsymbol{c} &=&\left\{ \left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array}\right) +\left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{array}\right)\right\} +\left( \begin{array}{c} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{array}\right)\\ &=& \left( \begin{array}{c} a_1+b_1 \\ a_2+b_2 \\ \vdots \\ a_n +b_n \end{array}\right) +\left( \begin{array}{c} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{array}\right)\\ &=& \left( \begin{array}{c} a_1+b_1 +c_1\\ a_2+b_2 +c_2\\ \vdots \\ a_n +b_n +c_n\end{array}\right) \end{eqnarray} \]

となり、一方

\[ \begin{eqnarray} \boldsymbol{a}+(\boldsymbol{b} + \boldsymbol{c}) &=& \left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array}\right) +\left\{\left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{array}\right) +\left( \begin{array}{c} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{array}\right)\right\}\\ &=& \left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array}\right) +\left( \begin{array}{c} b_1+c_1 \\ b_2+c_2 \\ \vdots \\ b_n+c_n \end{array}\right)\\ &=& \left( \begin{array}{c} a_1+b_1 +c_1\\ a_2+b_2 +c_2\\ \vdots \\ a_n +b_n +c_n\end{array}\right) \end{eqnarray} \]

となります。 これらを見比べると、 \[ (\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}) + \boldsymbol{c} = \boldsymbol{a}+(\boldsymbol{b} + \boldsymbol{c}) \] が成り立っていることがわかります。

このような法則が成り立つことは、上のような計算を真面目にやってみなくても、次のように考えると簡単に悟ることができます。

数ベクトルは数を並べたものです。 そして、数ベクトルの加法やスカラー倍は、各成分ごとに行われているだけです。 ですから、数の世界で成り立つ法則と同様の法則が数ベクトルでも成り立つわけです。

まとめ

\(n\) 個の数を順に縦に一列に並べ、カッコで囲ったものを \(n\) 次元の数ベクトルといいます。

数ベクトルは足したりスカラー倍することができ、上で説明したいくつかの法則が成り立ちます。

空間のベクトルの空間の一次写像と行列 行列とその演算(1)