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行列の基本変形

2022-6-17

ここではこれから、行列の「ある行と別のある行を入れ替える」とか、「ある行をナントカ倍する」とか「ある行をナントカ倍したしたものを別のある行にたす」といった操作について考えていきます。そして同様な操作を「列」についても考えます。

このような操作によって、行列をある「標準的な形」に変形することができます。これらの操作は、後に述べるように、実は、いくつかの特別な正則行列を行列に掛けることによって実現できます。そして、それらの特別な行列が正則であるという点は重要な意味をもっています。

行列を「標準的な形」に変形することにより、逆行列を求めたり、連立一次方程式を解いたりすることができます。また、このような操作は線形空間の基底の変換、行列式の理論的取扱いや計算、アーベル群の標準直和分解についての議論とその計算などでも重要な役割を果たします。

説明のための準備

\((m,n)\) 型の行列 \(A=\left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array} \right)\) の行による区分けと列による区分けを考えたとき、よく次に説明するような表記をすることがあります。

行による区分けの場合

\(A=\left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ \hline a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \hline \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \hline a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array} \right)\) のように区分けをした各行をそれぞれ行ベクトル

\[ \begin{align} &\boldsymbol{a}_1 = (a_{ 11 } \,\,\, a_{ 12 } \,\,\, \ldots \, a_{ 1n })\\[6pt] &\boldsymbol{a}_2 = (a_{ 21 } \,\,\, a_{ 22 } \,\,\, \ldots \, a_{ 2n })\\[6pt] &\quad\,\,\, \vdots\\[6pt] &\boldsymbol{a}_m = (a_{ m1 } \, a_{ m2 } \, \ldots \, a_{ mn }) \end{align} \]

と考え、

\[ A=\left(\begin{array}{c} \boldsymbol{a}_1\\ \boldsymbol{a}_2\\ \vdots\\ \boldsymbol{a}_m \end{array}\right) \]

と書くことがあります。

とくに \(n\) 次の単位行ベクトル \(\boldsymbol{e}_1, \boldsymbol{e}_2, \ldots ,\boldsymbol{e}_n\)

\[ \begin{align} &\boldsymbol{e}_1 \,= \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \end{array}\right)\\[6pt] &\boldsymbol{e}_2 \,= \left(\begin{array}{cccc} 0 & 1 & \cdots & 0 \end{array}\right)\\[6pt] &\quad\,\,\,\vdots \\[6pt] &\boldsymbol{e}_n = \left(\begin{array}{cccc} 0 & 0 & \cdots & 1 \end{array}\right) \end{align} \]

としておくと、\(n\) 次の単位行列 \(E_n\)\[ E_n=\left(\begin{array}{c} \boldsymbol{e}_1\\ \boldsymbol{e}_2\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) \] とあらわすことができます。

列による区分けの場合

\(A=\left(\begin{array}{c|c|c|c} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array} \right)\) のように区分けをした各列をそれぞれ列ベクトル

\[ \boldsymbol{a}_1 = \left(\begin{array}{c} a_{11}\\ a_{21}\\ \vdots\\ a_{m1} \end{array}\right),\, \boldsymbol{a}_2 = \left(\begin{array}{c} a_{12}\\ a_{22}\\ \vdots\\ a_{m2} \end{array}\right),\, \cdots,\, \boldsymbol{a}_n = \left(\begin{array}{c} a_{1n}\\ a_{2n}\\ \vdots\\ a_{mn} \end{array}\right) \]

と考え

\[ A=\left(\boldsymbol{a}_1 \, \boldsymbol{a}_2 \, \cdots \, \boldsymbol{a}_n \right) \]

と書くことがあります。

とくに \(n\) 次の単位列ベクトル \(\boldsymbol{e}_1, \boldsymbol{e}_2, \ldots ,\boldsymbol{e}_n\)

\[ \boldsymbol{e}_1 = \left(\begin{array}{c} 1\\ 0\\ \vdots\\ 0 \end{array}\right),\, \boldsymbol{e}_2 = \left(\begin{array}{c} 0\\ 1\\ \vdots\\ 0 \end{array}\right),\, \ldots,\, \boldsymbol{e}_n = \left(\begin{array}{c} 0\\ 0\\ \vdots\\ 1 \end{array}\right) \]

としておくと 、\(n\) 次の単位行列 \(E_n\)\[ E_n=\left(\boldsymbol{e}_1 \, \boldsymbol{e}_2 \, \cdots \, \boldsymbol{e}_n \right) \] とあらわすことができます。

基本変形

では本題です。このページのはじめで触れたように、行列の変形ではいくつかの重要な操作があるのですが、それらは行列の基本変形と呼ばれます。そして基本変形には行に関するものと列に関するものがあります。

行に関する基本変形

行列 \(A\) に対して

  1. \(i\) 行と 第 \(j\) 行を入れ替える。
  2. \(k\) 行を \(r\) 倍する。
  3. \(l\) 行を \(s\) 倍したものを 第 \(t\) 行に足す。ただし、\(s\)\(0\) でないとする。

という3つの操作を考えることにします。 これらの操作によって行列 \(A\) は変形され、別の行列になります。 この3つの変形を行に関する基本変形といいます。

\(A=\left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right)\) とします。

  1. たとえば、\(A\) の第 \(2\) 行と第 \(4\) 行を入れ替えると、

\[ \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ 0 & 5 &4\\ 2 & 1 &-1\\ -6 & 4 & 1 \end{array} \right) \]

  1. たとえば、\(A\) の第 \(2\) 行を \(-3\) 倍すると、

    \[ \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ 18 & -12 & -3 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \]

  2. たとえば、\(A\) の第 \(3\) 行に第 \(1\) 行の \(2\) 倍をたすと、第 \(1\) 行の \(2\) 倍 は

    \[ (6 \quad 2 \quad 0) \]

    なので、

    \[ \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 8 & 3 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \]

    などとなります。

列に関する基本変形

行列 \(A\) に対して

  1. \(i\) 列と 第 \(j\) 列を入れ替える。
  2. \(k\) 列を \(r\) 倍する。
  3. \(l\) 列を \(s\) 倍したものを 第 \(t\) 列に足す。ただし、\(s\)\(0\) でないとする。

という3つの操作を考えることにします。 これらの操作によって行列 \(A\) は変形され、別の行列になります。この3つの変形を列に関する基本変形といいます。

\(A=\left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right)\) とします。

  1. たとえば、\(A\) の第 \(1\) 列と第 \(2\) 列を入れ替えると、

    \[ \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrr} 1 & 3 & 0 \\ 4 & -6 & 1 \\ 1 & 2 &-1\\ 5 & 0 &4 \end{array} \right) \]

  2. たとえば、\(A\) の第 \(3\) 列を \(2\) 倍すると、

    \[ \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 2 \\ 2 & 1 &-2\\ 0 & 5 & 8 \end{array} \right) \]

  3. たとえば、\(A\) の第 \(2\) 列に第 \(3\) 列の \(-2\) 倍をたすと、第 \(3\) 列の \(-2\) 倍 は

    \[ \left(\begin{array}{r} 0\\ -2\\ 2\\ -8 \end{array}\right) \]

    なので、

    \[ \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrr} 3 & 0 & 0 \\ -6 & 2 & 1 \\ 8 & 3 &-1\\ 0 & -3 &4 \end{array} \right) \]

    などとなります。

基本変形と行列の積

実は、行に関する基本変形は何らかの正則な正方行列を左から掛けることで実現され、列に関する基本変形は何らかの正則な正方行列を右から掛けることで実現されます。まずいくつかの具体例を見てみることにしましょう。

いくつかの例

\(A=\left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right)\) とします。

  1. \(A\) の第 \(2\) 行と第 \(3\) 行を入れ替える基本変形は、\(A\) に左から行列

    \[ \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 &0 & 0\\ 0 & 0 & 1 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 1\ \end{array}\right) \]

    を掛けることで実現できます。
    実際、これを \(A\) に左から掛けて計算してみると、

    \[ \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 1 & 0\\ \hline 0 & 1 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 0 & 1\ \end{array}\right) \left(\begin{array}{r|r|r} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) = \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ 2 & 1 &-1\\ -6 & 4 & 1 \\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \]

    となることがわかり、第 \(2\) 行と第 \(3\) 行が入れ替わることが確認できます。
  2. \(A\) の第 \(2\) 行を \(-3\) 倍する基本変形は、\(A\) に左から行列

    \[ \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 &0 & 0\\ 0 & -3 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 1\ \end{array}\right) \]

    を掛けることで実現できます。
    実際、これを \(A\) に左から掛けて計算してみると、

    \[ \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 &0 & 0\\ \hline 0 & -3 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 1 & 0\\ \hline 0 & 0 & 0 & 1\ \end{array}\right) \left(\begin{array}{r|r|r} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) = \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ 18 & -12 & -3\\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \]

    となることがわかり、第 \(2\) 行が \(-3\) 倍されることが確認できます。
  3. \(A\) の第 \(2\) 行に第 \(3\) 行の \(-4\) 倍をたす基本変形は、\(A\) に左から行列

    \[ \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 &0 & 0\\ 0 & 1 & -4 & 0\\ 0 & 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 1\ \end{array}\right) \]

    を掛けることで実現できます。
    この行列は

    \[ \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 &0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{array}\right) +\left(\begin{array}{rrrr} 0 & 0 &0 & 0\\ 0 & 0 & -4 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{array}\right) \]

    と分解できることに注意して、 \(A\) の左から掛けて計算してみると、

    \[ \begin{eqnarray} && \left\{ \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 &0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{array}\right) +\left(\begin{array}{rrrr} 0 & 0 &0 & 0\\ 0 & 0 & -4 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{array}\right) \right\} \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right)\\ &=& \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 &0 & 0\\ \hline 0 & 1 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 1 & 0\\ \hline 0 & 0 & 0 & 1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{r|r|r} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) + \left(\begin{array}{rrrr} 0 & 0 &0 & 0\\ \hline 0 & 0 & -4 & 0\\ \hline 0 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 0 & 0 \end{array}\right) \left(\begin{array}{r|r|r} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right)\\ &=&\left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -6 & 4 & 1 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) + \left(\begin{array}{rrr} 0 & 0 & 0 \\ -8 & 4 &-4\\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)\\ &=& \left(\begin{array}{rrr} 3 & 1 & 0 \\ -14 & 8 & -3 \\ 2 & 1 &-1\\ 0 & 5 &4 \end{array} \right) \end{eqnarray} \]

    となることがわかり、第 \(2\) 行に第 \(3\) 行の \(-4\) 倍が足されることが確認できます。

基本行列

上のいくつかの例でみたように、実は3種類の行列があって、それらの行列を基本変形をしようと考えている行列に左または右から掛けることによって基本変形を実現することができます。

次のような形をしている3種類の \(n\) 次の特別な正方行列を考えることにします。

  1. 行や列の入れ替えを行う基本行列

    \[ \begin{array}{c} \\ \\ \\ T_n(i,j) = \end{array} \begin{array}{cc} \begin{array}{ccccccccccc} \quad & \quad & \quad & \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \,\: & \: & \,\: & \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad & \quad \end{array} & \; \\ \left(\begin{array}{ccccccccccc} 1 & & & \vdots & & & & \vdots & & & \\ & \ddots & & \vdots & & & & \vdots & & & \\ & & 1 & \vdots & & & & \vdots & & & \\ \cdots & \cdots & \cdots & 0 & \cdots & \cdots & \cdots & 1 & \cdots & \cdots & \cdots\\ & & & \vdots & 1 & & & \vdots & & & \\ & & & \vdots & & \ddots & & \vdots & & & \\ & & & \vdots & & & 1 & \vdots & & & \\ \cdots & \cdots & \cdots & 1 & \cdots & \cdots & \cdots & 0 & \cdots & \cdots & \cdots\\ & & & \vdots & & & & \vdots & 1 & & \\ & & & \vdots & & & & \vdots & & \ddots & \\ & & & \vdots & & & & \vdots & & & 1 \end{array}\right) & \begin{array}{r} \\ \\ \\ \leftarrow 第\,i\,行\\ \\ \\ \\ \\ \leftarrow 第\,j\,行\\ \\ \\ \\ \end{array} \end{array} \]

    \(n\) 次の単位行ベクトルを使うと、\(T_n(i,j)\)

    \[ T_n(i,j) = \begin{array}{cc} \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{e}_1\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_j\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_i\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \leftarrow 第\,j\,行 \\ \\\end{array} \end{array} \]

    とあらわすことができます。
    \(n\) 次の単位列ベクトルを使うと、\(T_n(i,j)\)

    \[ \begin{array}{c} \\[ 4pt ] \\ T_n(i,j)= \end{array} \begin{array}{c} \begin{array}{ccccccc} \quad\quad & \quad \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad \end{array} \\ \left(\begin{array}{ccccccc} \boldsymbol{e}_1 & \cdots & \boldsymbol{e}_j & \cdots & \boldsymbol{e}_i & \cdots & \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) \end{array} \]

    とあらわすことができます。
    \(T_n(i,j)\) は正則で、逆行列は自分自身、つまり \(T_n(i,j)\)です。
  2. 行や列をスカラー倍する基本行列

    \[ \begin{array}{c} \\[ 6pt ] \\ M_n(i;r) = \end{array} \begin{array}{cc} \begin{array}{ccccccc} \quad & \quad & \quad & \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \quad & \quad & \quad \end{array} & \; \\ \left(\begin{array}{ccccccc} 1 & & & \vdots & & & \\ & \ddots & & \vdots & & & \\ & & 1 & \vdots & & &\\ \cdots & \cdots & \cdots & r & \cdots & \cdots & \cdots \\ & & & \vdots & 1 & & \\ & & & \vdots & & 1 & \\ & & & \vdots & & & 1 \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \\ \leftarrow 第\,i\,行 , \quad\mathrm{ただし} r \neq 0 \\ \\ \\ \end{array} \end{array} \]

    \(n\) 次の単位行ベクトルを使うと、\(M_n(i;r)\)

    \[ M_n(i;r) = \begin{array}{cc} \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{e}_1\\ \vdots\\ r\boldsymbol{e}_i\\ \vdots\\ \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \end{array} \end{array} \]

    とあらわすことができます。
    \(n\) 次の単位列ベクトルを使うと、\(M_n(i;r)\)

    \[ \begin{array}{c} \\[ 4pt ] \\ M_n(i;r)= \end{array} \begin{array}{c} \begin{array}{ccccccc} \quad\quad & \quad \Large\stackrel{第\,i\,列}{\downarrow} & \quad & \quad \end{array} \\ \left(\begin{array}{ccccccc} \boldsymbol{e}_1 & \cdots & r\boldsymbol{e}_i & \cdots & \boldsymbol{e}_n \end{array}\right) \end{array} \]

    とあらわすことができます。
    \(M_n(i;r)\) は正則で、逆行列は \(M_n(i;\frac1r)\)です。
  3. 行や列に別の行や列のスカラー倍をたす基本行列

    \[ \begin{array}{c} \\[ 6pt ] \\ A_n(i,j;r) = \end{array} \begin{array}{cc} \begin{array}{cccccc} \quad & \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad & \quad \end{array} & \; \\ \left(\begin{array}{ccccccc} 1 & & \vdots & & & & \\ & \ddots & \vdots & & & & \\ & & 1 & & & & \\ & & \vdots & \ddots & & & \\ \cdots & \cdots & r & \cdots & 1 & \cdots & \cdots\\ & & \vdots & & \vdots & \ddots & \\ & & \vdots & & \vdots & & 1 \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \\ \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \end{array} \end{array} \]

    \(n\) 次の単位行ベクトルを使うと、\(A_n(i,j;r)\)

    \[ A_n(i,j;r) = E_n + \begin{array}{cc} \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \boldsymbol{0}\\ r\boldsymbol{e}_j\\ \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{0} \end{array}\right) & \begin{array}{c} \\ \leftarrow 第\,i\,行 \\ \\ \\ \\ \end{array} \end{array} \]

    とあらわすことができます。 \(n\) 次の単位列ベクトルを使うと、\(A_n(i,j;r)\)

    \[ \begin{array}{c} \\[ 4pt ] \\ A_n(i,j;r) = E_n + \end{array} \begin{array}{c} \begin{array}{cccccccc} \quad & \quad\quad & \quad \Large\stackrel{第\,j\,列}{\downarrow} & \quad & \quad \end{array} \\ \left(\begin{array}{cccccccc} \boldsymbol{0} & \cdots & \cdots &\boldsymbol{0} & r\boldsymbol{e}_i & \boldsymbol{0} &\cdots & \boldsymbol{0} \end{array}\right) \end{array} \]

    とあらわすことができます。
    \(A_n(i,j;r)\) は正則で、逆行列は \(A_n(i,j;-r)\)です。

以上説明した3つの行列を基本行列といいます。

基本行列による行列の基本変形

行列に、基本行列を左から掛けると行に関する基本変形ができ、右から掛けると列に関する基本変形ができます。詳しく言うと次のようなことが起こります。

行に関する基本変形

\((n,m)\) 型行列 \(A\) に「左」から、

  1. \(T_n(i,j)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 行と第 \(j\) 行 が取り替わります。
  2. \(M_n(i,r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 行が \(r\) 倍されます。
  3. \(A_n(i,j;r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 行に第 \(j\) 行 の \(r\) 倍が足されます。

列に関する基本変形

\((n,m)\) 型行列 \(A\) に「右」から、

  1. \(T_m(i,j)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 列と第 \(j\) 列 が取り替わります。
  2. \(M_m(i,r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 列が \(r\) 倍されます。
  3. \(A_m(i,j;r)\) を掛けると \(A\) の第 \(i\) 列に第 \(j\) 列 の \(r\) 倍が足されます。

それでは例えば、行に関する基本変形の 3 ですが、本当にそのようになるのか、計算で確かめてみることにします。

\((n,m)\) 型行列 \(A=\left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1m } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2m } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ n1 } & a_{ n2 } & \ldots & a_{ nm } \end{array} \right)\) に「左」から、\(A_n(i,j;r)\) を掛けると、

\[ \begin{eqnarray} A_n(i,j;r) A & =& \left\{ \begin{array}{cc} \begin{array}{c} \\ 第\,i\,行 \rightarrow\\ E_n \quad +\\ \\ \\ \end{array} & \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \boldsymbol{0}\\ r\boldsymbol{e}_j\\ \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{0} \end{array}\right) \end{array}\right\}A\\[6pt] &=& E_nA +\left(\begin{array}{c} \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \boldsymbol{0}\\ r\boldsymbol{e}_j\\ \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{0} \end{array}\right) A\\[6pt] &=& \begin{array}{cc} \begin{array}{c} \\ 第\,i\,行 \rightarrow\\ A \quad +\\ \\ \\ \end{array} & \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \boldsymbol{0}\\ r\boldsymbol{e}_j\\ \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{0} \end{array}\right) \end{array} \left(\begin{array}{c|c|c|c} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1m } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2m } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ j1 } & a_{j2 } & \ldots & a_{ jm }\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ n1 } & a_{ n2 } & \ldots & a_{ nm } \end{array}\right)\\[6pt] &=& \begin{array}{cc} \begin{array}{c} \\ 第\,i\,行 \rightarrow\\ A \quad + \\ \\ \\ \end{array} & \left(\begin{array}{ccccc} 0 & 0 & \cdots & \cdots & \cdots & 0\\ \vdots & \vdots & \ddots & \ddots & \ddots & \vdots\\ 0 & 0 & \cdots & \cdots & \cdots & 0\\ ra_{j1} & ra_{j2} & \cdots & \cdots & \cdots & ra_{jn}\\ 0 & 0 & \cdots & \cdots & \cdots & 0\\ \vdots & \vdots & \ddots & \ddots & \ddots & \vdots\\ \vdots & \vdots & \ddots & \ddots & \ddots & \vdots\\ 0 & 0 & \cdots & \cdots & \cdots & 0\\ \end{array}\right) \end{array}\\[6pt] &=& \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{a}_1\\ \vdots\\ \boldsymbol{a}_i\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{a}_n \end{array}\right) + \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{0}\\ \vdots\\ r\boldsymbol{a}_j\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{0} \end{array}\right)\\[6pt] &=& \left(\begin{array}{c} \boldsymbol{a}_1\\ \vdots\\ \boldsymbol{a}_i +r\boldsymbol{a}_j\\ \vdots\\ \vdots\\ \boldsymbol{a}_n \end{array}\right) \end{eqnarray} \]

と計算できることがわかります。これで本当に \(A\) の 第 \(i\) 行に \(A\) の第 \(j\) 行の \(r\) 倍がたされることが確認できました。

これ以外の基本変形も同様に計算で確認することができます。

まとめ

行列の行や列に対して、それらを入れ替えたり、それらをナントカ倍したり、それらをナントカ倍したものを別のある行や列にたすといった操作を基本変形といいます。

基本変形は3種類の正則な正方行列を左または右から掛けることで実現されます。 行に関する変形は左から、列に関する変形は右から掛けることによって実現されます。

数ベクトルの空間の一次写像 行列の標準形