一次独立と一次従属
2022-12-03
線形空間には「空間全体を支配していてすべてのベクトルをあらわすことができるベクトルの集まり」を考えることができ、それらは基底と呼ばれることになります。そして、基底を利用することによりどんな有限次元の線形空間も、これまでに学んだ数ベクトル空間と同一視できるようになることがわかります。
基底という概念を導入するための準備として、ここではベクトルの一次独立、一次従属という概念について説明します。
幾何ベクトルと数ベクトルの一次結合についてのおさらい
以前学んだ、幾何ベクトルの空間または数ベクトルの空間のことを思い出してみましょう。
このようなベクトルの空間の中の、いくつかのベクトル \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\ldots,\boldsymbol{c}\) を考えることにします。そして、ベクトルの個数と同じだけ数 \(x,y,\ldots,z\) を用意して、 \[ x\boldsymbol{a} + y\boldsymbol{b} + \cdots + z\boldsymbol{c} \] というようにしてあらたなベクトルを作ることにします。このようにして作られるベクトルを \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\ldots,\boldsymbol{c}\) の一次結合(または線形結合)というのでした。ですから、あるベクトル \(\boldsymbol{v}\) が、 \[ \boldsymbol{v} = x\boldsymbol{a} + y\boldsymbol{b} + \cdots + z\boldsymbol{c} \] とあらわされるときには、\(\boldsymbol{v}\) は \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\ldots,\boldsymbol{c}\) の一次結合(または線形結合)であるというのでした。
例
次の図の矢印であらわされる平面のベクトル \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\) の間には
\[ \boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a} \]
という関係があることがわかります。つまり、\(\boldsymbol{b}\) は \(\boldsymbol{a}\) の一次結合であらわされています。
そしてこの関係は、 \[ 2\boldsymbol{a} - \boldsymbol{b}=\boldsymbol{0} \] と書くこともできます。 この式は、\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\) の一次結合として零ベクトル \(\boldsymbol{0}\) をつくるとしたら、たとえばそれぞれの係数を \(2,-1\) にして一次結合を作れば良いということを意味しています。
例
次の図の矢印であらわされる平面のベクトル \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\) では、\(\boldsymbol{a}\) を \(\boldsymbol{b}\) の一次結合であらわしたり、\(\boldsymbol{b}\) を \(\boldsymbol{a}\) の一次結合であらわすことはできません。
そして、\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\) の一次結合として零ベクトル \(\boldsymbol{0}\) をつくるとしたら、どちらの係数も \(0\) にして一次結合を作るしかありません。 つまり、 \[r\boldsymbol{a}+s\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}\] という関係式が成り立つのは、 \[r=s=0\] の時に限るということを意味します。
例
次の図の矢印であらわされる平面のベクトル \(\boldsymbol{u},\boldsymbol{v},\boldsymbol{w}\) の間には
\[ \boldsymbol{w} = 2\boldsymbol{u} + \boldsymbol{v} \] という関係があることがわかります。 つまり、\(\boldsymbol{w}\) は \(\boldsymbol{u},\boldsymbol{v}\) の一次結合であらわされます。 そしてこの関係は、 \[ 2\boldsymbol{u} + \boldsymbol{v}-\boldsymbol{w}=\boldsymbol{0} \] と書くこともできます。 これは、\(\boldsymbol{u},\boldsymbol{v},\boldsymbol{w}\) の一次結合として零ベクトル \(\boldsymbol{0}\) をつくるとしたら、たとえばそれぞれの係数を \(2,1,-1\) にして一次結合を作れば良いということを意味しています。
例
数ベクトル \(\boldsymbol{a}=\left(\begin{array}{r}2\\-1\\1\end{array}\right),\boldsymbol{b}=\left(\begin{array}{r}8\\-3\\-3\end{array}\right),\boldsymbol{c}=\left(\begin{array}{r}-1\\0\\3\end{array}\right)\) の間には\[ \boldsymbol{b} = 3\boldsymbol{a} -2 \boldsymbol{c} \]
実際、\(3\boldsymbol{a} -2 \boldsymbol{c}\) を計算してみると…
\[ \begin{align} 3\boldsymbol{a} -2 \boldsymbol{c} &=3\left(\begin{array}{r}2\\-1\\1\end{array}\right) - 2\left(\begin{array}{r}-1\\0\\3\end{array}\right)\\ &=\left(\begin{array}{r}6\\-3\\3\end{array}\right) + \left(\begin{array}{r}2\\0\\-6\end{array}\right)\\ &=\left(\begin{array}{r}8\\-3\\-3\end{array}\right)\\ &=\boldsymbol{b} \end{align} \]
つまり、\(\boldsymbol{b}\) は \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{c}\) の一次結合であらわされます。 この関係は、 \[ 3\boldsymbol{a} - \boldsymbol{b}-2\boldsymbol{c} =\boldsymbol{0} \] と書くこともできます。 これは、\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\boldsymbol{c}\) の一次結合として零ベクトル \(\boldsymbol{0}\) をつくるとしたら、たとえばそれぞれの係数を \(3,-1,-2\) にして一次結合を作れば良いということを意味しています。
例
数ベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{r}2\\-1\\1\end{array}\right),\boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{r}8\\-3\\10\end{array}\right),\boldsymbol{z}=\left(\begin{array}{r}-1\\0\\3\end{array}\right)\) では\[ r\boldsymbol{x}+s\boldsymbol{y}+t\boldsymbol{z} =\boldsymbol{0} \]
詳しく言うと…
この式は未知数 \(r,s,t\) に関する連立一次方程式と考えることができます。 つまり、\[ \left\{\begin{align} &2r+8s-t=0\\ &-s-3t=0\\ &r+10s+3t=0 \end{align}\right. \]
これは、\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y},\boldsymbol{z}\) の一次結合として零ベクトル \(\boldsymbol{0}\) をつくるとしたら、すべての係数を \(0\) にして一次結合を作るしかないということを意味しています。 さらにこの式は、\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y},\boldsymbol{z}\) のうちのどの1つも、残りの2つの一次結合としてあらわせないということを意味します。
以上、いくつかの例を通して、幾何ベクトルや数ベクトルの世界で成り立っている次のような事実について思い出してもらいました。
- いくつかのベクトルがあるとき、どれかが残りの一次結合であらわせるならば、それらのベクトル全部を使って一次結合として零ベクトルをつくるときにすべての係数を \(0\) にしなくても良い。
- いくつかのベクトルがあるとき、どれも残りの一次結合であらわせないならば、それらのベクトル全部を使って一次結合として零ベクトルをつくるときにすべての係数を \(0\) にしなくてはならない。
また、逆に
- いくつかのベクトルがあるとき、それらのベクトル全部を使って一次結合として零ベクトルをつくるときにすべての係数を \(0\) にしなくても良いならば、どれかが残りの一次結合であらわせる。
- いくつかのベクトルがあるとき、それらのベクトル全部を使って一次結合として零ベクトルをつくるときにすべての係数を \(0\) にしなくてはならないならば、どれも残りの一次結合であらわせない。
ということも実はすでに学んでいます。
ベクトルの一次独立と一次従属
一次独立、一次従属とは
ここからは、幾何ベクトルや数ベクトルの空間に限らず、一般の線形空間の話となります。
\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) に属しているいくつかのベクトル \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) があるとします。
\(\mathbb{K}\) に属している何らかの数 \(c_1,c_2,\ldots, c_n\) を使って、\[ c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n \]
として作られるベクトルを \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合(または線形結合)といいます。
ではここで次のような問題を考えることにしましょう。
問題
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) がどのようなベクトルだとしても、それらの一次結合として \(\boldsymbol{0}\) をつくることはできるのでしょうか?そして \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合として零ベクトル \(\boldsymbol{0}\) をつくることができるとしたら、 \(c_1,c_2,\ldots, c_n\) としてどんな数を使えばよいのでしょうか?
まず、すぐにわかるのは、係数 \(c_1,c_2,\ldots, c_n\) をすべて \(0\) にしてしまえば必ず零ベクトル \(\boldsymbol{0}\) をつくることができるということです。しかし、先のおさらいで見た幾何ベクトルや数ベクトルのいくつかの例からもわかるように、係数すべてを \(0\) にしなくても良いときがあります。 つまりこの問題の答えは、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) がどのようなベクトルであるのかによって変わるわけで、
- \(c_1,c_2,\ldots, c_n\) をすべて \(0\) にするしかない場合
- \(c_1,c_2,\ldots, c_n\) をすべて \(0\) にしなくても良い場合
があるわけです。
どんな場合にどちらのことが起きるのかということをこれから考えるわけですが、話を進める前に、状況を完結にあらわすためのいくつか用語を用意することにします。
\(c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n = \boldsymbol{0}\) とできるのは \(c_1=c_2=\cdots c_n=0\) のときだけの場合、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次独立であるということにします。
また、\(c_1,c_2,\ldots,c_n\) を全部 \(0\) にしなくても \(c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n = \boldsymbol{0}\) とできるとき、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次従属であるということにします。
補足:一次独立、一次従属という言葉の代わりにそれぞれ線形独立、線形従属という言葉も使われています。
用語の定義が済んだところで、先の問題の答えを述べてみることにします。
実はどんなベクトルの空間でも幾何ベクトルや数ベクトルの世界と同様なことが成り立っています。それを述べたのが次の定理とその次の定理です。(前もって言っておくと、これら定理の証明は、先の幾何ベクトルや数ベクトルの例の説明中で行ったものと同様な式変形をしているに過ぎません。)
定理
- \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次従属であるならば、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) のうちの少なくとも1つは残りのベクトルの一次結合であらわすことができます。
- \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) のうちの少なくとも1つが残りのベクトルの一次結合であらわすことができるならば、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次従属です。
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次従属である(係数を全部 \(0\) にしなくても一次結合で零ベクトルを作れる。)
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の少なくともどれか1つは残りのベクトルの一次結合であらわすことができる
ということは同じことであるということを主張しています。
証明
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次従属とすると、\(c_1,c_2,\ldots,c_n\) を全部 \(0\) にしなくても
\[ c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n = \boldsymbol{0} \tag{1} \]
とできます。 \(c_1,c_2,\ldots,c_n\) のうち、\(0\) ではないものは \(c_k\) であるとすると、 \((1)\) 式より
\[ \boldsymbol{a}_k=-\frac{c_1}{c_k}\boldsymbol{a}_1-\cdots-\frac{c_{k-1}}{c_k}\boldsymbol{a}_{k-1}-\frac{c_{k+1}}{c_k}\boldsymbol{a}_{k+1}-\cdots-\frac{c_n}{c_k}\boldsymbol{a}_n \]
とできるので、少なくとも1つを残りの一次結合であらわせました。
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) のうち、\(a_k\) が残りのベクトルの一次結合であらわすことができるとすると、
\[ a_k=c_1\boldsymbol{a}_1 +\cdots + c_{k-1}\boldsymbol{a}_{k-1} + \cdots + c_{k+1}\boldsymbol{a}_{k+1} +\cdots + c_{n}\boldsymbol{a}_{n} \tag{2} \]
となります。\((2)\) 式より、
\[ c_1\boldsymbol{a}_1 +\cdots + c_{k-1}\boldsymbol{a}_{k-1} -\boldsymbol{a}_k + \cdots + c_{k+1}\boldsymbol{a}_{k+1} +\cdots + c_{n}\boldsymbol{a}_{n}=\boldsymbol{0} \]
となり、少なくとも \(\boldsymbol{a}_k\) の係数は \(0\) ではありません。ですから、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次従属です。
(証明終わり)
定理
- \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次独立であるならば、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) のうちのどれも残りのベクトルの一次結合であらわすことはできません。
- \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) のうちのどれも残りのベクトルの一次結合であらわすことができないならば、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次独立です。
証明
- これは前の定理の2.を言い換えただけです。つまり、定理の2.の対偶です。
- これは前の定理の1.を言い換えただけです。つまり、定理の1.の対偶です。
一次独立なベクトルの集まりにベクトルを追加する
それではここから、あるベクトルの集まりが一次独立のとき、それらにあらたにベクトルを追加する話をします。
定理
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次独立であるとします。
- あるベクトル \(\boldsymbol{a}\) を追加した \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n,\boldsymbol{a}\) が一次従属ならば、\(\boldsymbol{a}\) は \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合であらわされます。
- あるベクトル \(\boldsymbol{a}\) が \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合であらわされなければ、このベクトルを追加した \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n,\boldsymbol{a}\) も一次独立です。
証明
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n,\boldsymbol{a}\) が一次従属なので、少なくとも1つは \(0\) ではない \(c_1,c_2,\cdots,c_n,c\) があって
\[ c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n +c\boldsymbol{a}= \boldsymbol{0} \tag{*} \]
が成り立ちます。このとき \(c=0\) であることはありません。 なぜなら、 \(c=0\) とすると、\((*)\) 式は
\[ c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n = \boldsymbol{0} \]
となり、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次独立なので、 \[c_1=c_2=\cdots=c_n=0\] となってしまいます。 そうすると、\(c_1,c_2,\cdots,c_n,c\) はすべて \(0\)となってしまい矛盾が起こります。これで \(c\) は \(0\) でないことがわかりました。ですから、\((*)\) 式より、
\[ \boldsymbol{a} =-\frac{c_1}{c}\boldsymbol{a}_1-\frac{c_2}{c}\boldsymbol{a}_2-\cdots-\frac{c_n}{c} \boldsymbol{a}_n \]
とすることができ、\(\boldsymbol{a}\) は \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合であらわされることになります。
これは1.を言い換えただけです。 つまり、これは1.の対偶です。
ベクトルの集まりからいくつかのベクトルを取り出す
こんどは、あるベクトルの集まりからになにかベクトルを取り出す話をします。
定理
- \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次独立ならば、そこから一部分を取り出した \(\boldsymbol{a}_{i_1},\boldsymbol{a}_{i_2},\ldots,\boldsymbol{a}_{i_k}\) も一次独立です。
- \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) から一部分を取り出した \(\boldsymbol{a}_{i_1},\boldsymbol{a}_{i_2},\ldots,\boldsymbol{a}_{i_k}\) が一次従属ならば、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次従属です。
証明
- 記号を見やすくするために、一部分として取り出したものは \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_k\) であるとします。 一部分をとったものに対して、
\[c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_k\boldsymbol{a}_k=0\]
\[c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots++c_k\boldsymbol{a}_k+0\boldsymbol{a}_{k+1} \cdots + 0\boldsymbol{a}_n=0\]が成り立ちます。 ところで、 全体 \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次独立なのですから、これらの一次結合で \(0\) をつくるには、全体 \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の係数をすべて \(0\) にする以外ありません。 ですから、 \[c_1=c_2=\cdots=c_k=0\] であることになり、これは \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_k\) が一次独立であることを意味します。 - これは1.を言い換えただけです。 つまり、これは1.の対偶です。
ベクトルを一次独立なベクトルであらわすときの一意性
最後に、あるベクトルを一次独立なベクトルをつかってあらわす方法は1通りしかないという話をします。
定理
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次独立であるとします。
あるベクトル\(\boldsymbol{x}\) が\[ \boldsymbol{x} = x_1\boldsymbol{a}_1+x_2\boldsymbol{a}_2+\cdots +x_n\boldsymbol{a}_n \]
と \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合であらわされているとき、係数 \(x_1,x_2,\ldots,x_n\) は \(\boldsymbol{x}\) から一意に決まります。
証明
\(\boldsymbol{x}\) が\[ \boldsymbol{x} = x_1\boldsymbol{a}_1+x_2\boldsymbol{a}_2+\cdots +x_n\boldsymbol{a}_n \]
\[ \boldsymbol{x} = x'_1\boldsymbol{a}_1+x'_2\boldsymbol{a}_2+\cdots +x'_n\boldsymbol{a}_n \]
\[ x_1\boldsymbol{a}_1+x_2\boldsymbol{a}_2+\cdots +x_n\boldsymbol{a}_n=x'_1\boldsymbol{a}_1+x'_2\boldsymbol{a}_2+\cdots +x'_n\boldsymbol{a}_n \]
\[ (x_1-x'_1)\boldsymbol{a}_1+(x_2-x'_2)\boldsymbol{a}_2+\cdots +(x_n-x'_n)\boldsymbol{a}_n=\boldsymbol{0} \]
\[ \begin{align} &x_1-x'_1=0\\ &x_2-x'_2=0\\ &\qquad\vdots\\ &x_n-x'_n=0 \end{align} \]
\[ x_1=x'_1,\,x_2=x'_2,\,\cdots,\,x_n=x'_n \]
となるので、\(\boldsymbol{x}\) を \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合であらわす仕方は1通りということになります。
まとめ
\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) に属しているいくつかのベクトル \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) と \(\mathbb{K}\) に属している何らかの数 \(c_1,c_2,\ldots, c_n\) を使って、\[ c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n\]
として作られるベクトルを \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合といいます。
\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) に属しているいくつかのベクトル \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) に対して、\(c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n = \boldsymbol{0}\) とできるのは \(c_1=c_2=\cdots c_n=0\) のときだけの場合、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次独立であるといい、\(c_1,c_2,\ldots,c_n\) を全部 \(0\) にしなくても \(c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n = \boldsymbol{0}\) とできるとき、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次従属であるといいます。
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次従属である(係数を全部 \(0\) にしなくても一次結合で零ベクトルを作れる。) ということと、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の少なくともどれか1つは残りのベクトルの一次結合であらわすことができるということは同じことです。
上のことを一次独立という立場から言い直すと、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次独立である(係数を全部 \(0\) にしなければ一次結合で零ベクトルを作れない。) ということと、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) のどれも残りのベクトルの一次結合であらわすことができないということは同じということになります。
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次独立であるとき、 あるベクトル \(\boldsymbol{a}\) を追加した \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n,\boldsymbol{a}\) が一次従属ならば、\(\boldsymbol{a}\) は \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合であらわされます。言い換えると、あるベクトル \(\boldsymbol{a}\) が \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) の一次結合であらわされなければ、このベクトルを追加した \(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n,\boldsymbol{a}\) も一次独立です。
\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) が一次独立ならば、そこから一部分を取り出した \(\boldsymbol{a}_{i_1},\boldsymbol{a}_{i_2},\ldots,\boldsymbol{a}_{i_k}\) も一次独立です。言い換えると、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) から一部分を取り出した \(\boldsymbol{a}_{i_1},\boldsymbol{a}_{i_2},\ldots,\boldsymbol{a}_{i_k}\) が一次従属ならば、\(\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\ldots,\boldsymbol{a}_n\) は一次従属です。
あるベクトルを一次独立なベクトルをつかってあらわす方法は1通りしかありません。