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線形写像の行列による表現(1)

2023-03-25

線形空間のベクトルは、線形空間の基底を1つ選んでおけば座標で扱うことができます。ですから、2つの線形空間があれば、それぞれの空間の基底を選んぶことによりどちらの空間のベクトルも座標で扱うことができます。

ところで、数ベクトル空間では、線形写像は数ベクトルに行列を掛けるという形をしていることをすでに見てきましたが、一般の線形空間では、座標は数ベクトルと同様に数を縦に並べたものです。ということは、基底を選んでベクトルを座標で扱うことにすれば、一般の2つの線形空間の場合でもそれら間の線形写像を行列で扱うことができそうです。

基底を選び線形写像を行列で扱う

\(U\)\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元線形空間、\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の \(m\) 次元線形空間とし、

\[ f:U \to V \]

\(U\) から \(V\) への線形写像とします。

また、\(U\)\(V\) の基底をそれぞれ1つ選んでおくことにし、\(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt\)\(U\) の基底、\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m \gt\)\(V\) の基底とします。

このとき、\(U\) のどんなベクトル \(\boldsymbol{x}\)

\[ \boldsymbol{x}=x_1\boldsymbol{u}_1+x_2\boldsymbol{u}_2+\cdots+x_n\boldsymbol{u}_n \]

とあらわすことができるのでした。そして、\(U\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) を数ベクトル \(\left(\begin{array}{c}x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\) と同一視することにします。

同じように、\(V\) のどんなベクトル \(\boldsymbol{y}\)

\[ \boldsymbol{y}=y_1\boldsymbol{u}_1+y_2\boldsymbol{u}_2+\cdots+y_m\boldsymbol{u}_m \]

とあらわすことができるので、\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{y}\) を数ベクトル \(\left(\begin{array}{c}y_1\\ y_2\\ \vdots\\ y_m\end{array}\right)\) と同一視することにします。

このようにして現れる数ベクトル \(\left(\begin{array}{c}x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\)\(\left(\begin{array}{c}y_1\\ y_2\\ \vdots\\ y_m\end{array}\right)\) はそれぞれ \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) の座標と呼ばれるということも思い出しておきましょう。

このような同一視をすれば、\(U\) から \(V\) への線形写像 \(f\) は、次の図のように、数ベクトルに数ベクトルを対応させるような数ベクトル空間の間の線形写像と思うことができるわけです。

\[ \begin{array}{ccc} \boldsymbol{x} & \stackrel{f}{\longmapsto} & \boldsymbol{y}\\ \updownarrow & & \updownarrow \\ \left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n \end{array} \right) & \stackrel{f}{\longmapsto} & \left( \begin{array}{c} y_1\\ y_2\\ \vdots\\ \vdots\\ y_m \end{array} \right) \end{array} \]

そして、このようにして数ベクトル空間の間の線形写像と思うことにした \(f\) は、きっと行列で扱うことができるはずです。

それでは、数ベクトル空間の間の線形写像と思うことにした \(f\) はどんな行列で扱うことができるのでしょうか?このことを考えるために、まず、数ベクトルと同一視する前の状態、つまりもともとの \(U\)\(V\) に立ち返り、\(U\) の基底と \(V\) の基底をつかった議論を進めることにします。

線形写像の表現行列

定義

線形空間 \(U\) から \(V\) への線形写像 \(f\) は、\(f\) によって \(U\) の基底を構成している各ベクトルが \(V\) のどのようなベクトルに対応するのかということで完全に決まるのでした。

詳しく言うと、\(U\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt\) を構成しているベクトル \(\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n\) が $f:U V $ により、それぞれ \(V\) のどんなベクトルに対応するのかということによって、線形写像 \(f\) の振る舞いは完全に決まるわけです。

また、\(f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),\ldots,f(\boldsymbol{u}_n)\)\(V\) ベクトルですから、\(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m \gt\) を使えば何らかの数(スカラー)\(a_{*\star}\) たちによって、それぞれ

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{u}_1)&=a_{11}\boldsymbol{v}_1 + a_{21}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{m1}\boldsymbol{v}_m\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_2)&=a_{12}\boldsymbol{v}_1 + a_{22}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{m2}\boldsymbol{v}_m\\[6pt] &\,\,\,\vdots\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_n)&=a_{1n}\boldsymbol{v}_1 + a_{2n}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{mn}\boldsymbol{v}_m\\[6pt] \end{align} \tag{1} \]

とあらわされるはずです。 (\(a_{*\star}\) の添字の付け方に注意してください。 ) \((1)\) 式は行列の書き方を流用して、

\[ \left(f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),\ldots,f(\boldsymbol{u}_n) \right) = \left(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m\right) \left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array}\right) \tag{2} \]

とまとめて書くこともできます。

このようにして現れる行列

\[ \left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array}\right) \]

を基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt,\,\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m \gt\) に関する \(f\)表現行列といいます。

\(U\)\(\mathbb{K}\) 上の \(3\) 次元線形空間、\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の \(2\) 次元線形空間とします。

また、

\[ f:U \to V \]

\(U\) から \(V\) への線形写像とします。

\(U\)\(V\) に対して、何らかの基底をそれぞれ1つ選び、それらをここでは \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3 \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2 \gt\) と書くことにします。そしてこのとき、例えば

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{u}_1 )&=5\boldsymbol{v}_1-3\boldsymbol{v}_2 \\[6pt] f(\boldsymbol{u}_2 )&=\boldsymbol{v}_1+2\boldsymbol{v}_2\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_3 )&=-\boldsymbol{v}_1+2\boldsymbol{v}_2 \end{align} \]

となっていたとします。これは、行列の書き方を流用して

\[ \left(f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),f(\boldsymbol{u}_3) \right) = \left(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\right) \left(\begin{array}{rrr} 5 & 1 & -1 \\ -3 & 2 & 2 \\ \end{array}\right) \]

とあらわすことができるので、\(f\)\(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3 \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2 \gt\) に関する表現行列は \[\left(\begin{array}{rrr} 5 & 1 & -1 \\ -3 & 2 & 2 \\ \end{array}\right)\] ということになります。

漸化式 \(a_{n+2}=2a_{n+1} - a_n\) を満たす実数の無限数列 \(a_1,a_2,\ldots\) をすべて集めてできる集合を \(V\) とします。

ここでは数列をカッコで囲って、\((a_1,a_2,\ldots)\) のようにあらわすことにします。

\(V\) に属する2つの数列 \((a_1,a_2,\ldots)\)\(( b_1,b_2,\ldots)\) の和を

\[(a_1,a_2,\ldots) +( b_1,b_2,\ldots) =(a_1+b_1,a_2+b_2,\ldots)\]

として定義し、 実数 \(r\) による数列 \((a_1,a_2,\ldots)\) のスカラー倍を

\[r(a_1,a_2,\ldots)=(ra_1,ra_2,\ldots)\]

として定義することにより \(V\) は実数 \(\mathbb{R}\) 上の線形空間になるということがわりと簡単に確かめられます。(\(V\) の数列の和やスカラー倍が漸化式を満たすことを確認してみましょう。)

いまここで、\(V\) から \(V\) への写像として、「\(1\) 項ずらす」 というものを考えてみることにし、この写像を \(f\) あらわすことにします。つまり、

\[ (a_1,a_2,a_3,\ldots) \stackrel{f}{\mapsto} (a_2,a_3,a_4,\ldots) \]

のようにして、\(V\) の数列 \((a_1,a_2,a_3,\ldots)\)\(V\) の数列 \((a_2,a_3,a_4,\ldots)\) に対応させる写像を \(f\) と呼ぶことにしたわけです。
詳しく言うと… 例えば、

\[ (2,-1,-4,-7,-10, \ldots) \]

のように数が並ぶ数列は漸化式 \(a_{n+2}=2a_{n+1} - a_n\) を満たすので \(V\) に属しています。そして \(f\) によってこの数列は \[ (2,-1,-4,-7,-10, \ldots) \stackrel{f}{\mapsto}(-1,-4,-7,-10,13, \ldots) \] のように、右側の数列に対応させられることになります。もちろん言うまでもありませんが、右側の数列 \((-1,-4,-7,-10,13, \ldots)\) は漸化式 \(a_{n+2}=2a_{n+1} - a_n\) を満たしているので \(V\) に属しています。

このように、漸化式 \(a_{n+2}=2a_{n+1} - a_n\) を満たす数列を「\(1\) 項ずらす」ことによって得られる数列も必ず漸化式 \(a_{n+2}=2a_{n+1} - a_n\) を満たすので、\(f\)\(V\) から \(V\) への写像となっているわけです。
この \(f\) は線形写像となっていることをわりと簡単に確かめることができます。
詳しく言うと… \(V\) に属する2つの数列 \((a_1,a_2,\ldots)\)\(( b_1,b_2,\ldots)\) に対して

\[ \begin{align} f\left((a_1,a_2,\ldots) +( b_1,b_2,\ldots)\right) & = f\left((a_1+b_1,a_2+b_2,\ldots)\right)\\ & = (a_2+b_2,a_3+b_3,\ldots)\\ & = (a_2,a_3,\ldots) +(b_2,b_3,\ldots)\\ & = f\left((a_1,a_2,\ldots)\right)+ f\left((b_1,b_2,\ldots)\right) \end{align} \]

が成り立ち、\(V\) に属する数列 \((a_1,a_2,\ldots)\) と 実数 \(r\) に対して

\[ \begin{align} f\left(r(a_1,a_2,\ldots) \right) & = f\left((ra_1,ra_2,\ldots)\right)\\ & = (ra_2,ra_3,\ldots)\\ & = r(a_2,a_3,\ldots)\\ & = r f\left((a_1,a_2,\ldots)\right) \end{align} \]

が成り立つので、\(f\) は線形であることが確認できました。

それでは、\(V\) の何かしらの基底を使い、この線形写像 \(f\) の表現行列を求めてみることにしましょう。そのためにまず、\(V\) の線形空間としての構造について考えてみることにします。

\(V\) は漸化式 \(a_{n+2}=2a_{n+1}-a_n\) を満たす実数の無限数列 \((a_1,a_2,a_3,\ldots)\) の集まりですが、この漸化式を満たす数列は第一項 \(a_1\) と第二項 \(a_2\) の値で残りの項 \(a_3,a_4,\ldots\) の値は決まってしまいます。そこでいま、この漸化式を満たす数列のうち、たとえば、第一項が \(1\) で第二項が \(0\) である数列を(ベクトルっぽい記号で)\(\boldsymbol{a}\) と書くことにし、第一項が \(0\) で第二項が \(1\) である数列を(ベクトルっぽい記号で)\(\boldsymbol{b}\) と書くことにします。
念の為補足しておくと… \(\boldsymbol{a}\)

\[1,0,-1,-2,3,8,\ldots\]

となる数列で、\(\boldsymbol{b}\)

\[0,1,2,3,4,5,\ldots\]

となる数列です。

実はこの \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) は一次独立であるばかりでなく、\(V\) のどんな数列もこの \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) の一次結合であらわすことができることがわかります。これから確認してみることにしましょう。

まず、2つの実数 \(r,s\) に対して、\(r\boldsymbol{a}+s\boldsymbol{b} = \boldsymbol{0}\) が成り立つとしてみます。

\[ \begin{align} r\boldsymbol{a}+s\boldsymbol{b}&= r(1,0,\ldots) + (0,1,\ldots)\\[6pt] &=(r,0,\ldots)+(0,s,\ldots)\\[6pt] &=(r,s,\ldots) \end{align} \]

となり、 \(V\) における零ベクトルは \((0,0,0,0,\ldots)\) という数列ですから \(r\boldsymbol{a}+s\boldsymbol{b} = \boldsymbol{0}\) が成り立つのは \(r\)\(s\) がともに \(0\) のときだけということになるので \(x\boldsymbol{a}+y\boldsymbol{b}\) という数列 は一次独立であることがわかりました。

次に、\(V\) に属している勝手な数列 \(\boldsymbol{c}\) を考えることにし、\(\boldsymbol{c}\) の第一項は \(x\)、第二項は \(y\) となっているとします。このとき、\(x\boldsymbol{a}+y\boldsymbol{b}\) という数列を考えると、実はこれは数列 \(\boldsymbol{c}\) と等しくなります。\(x\boldsymbol{a}+y\boldsymbol{b}\) という数列の第一項が \(x\) で第二項が \(y\) となることは明らかなので数列 \(\boldsymbol{c}\) の第二項 までとは一致しています。ですから問題となるのは、第三項以降もちゃんと一致しているのかということです。しかしこれもほとんど明らかと言って良いでしょう。なぜなら、\(V\) に属しいるどの数列も、漸化式に従い最初の二項の値で第三項以降の値は完全に決まっているからです。というわけで、\(V\) に属しているどの数列も \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) の一次結合としてあらわせることがわかりました。

以上の考察から、\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\)\(V\) の基底を構成することがわかります。つまり、\(V\)\(\mathbb{R}\) 上の2次元の線形空間であることがわかりました。

それでは、やっと本題に入ることにしましょう。

\(V\) の基底 \(\lt\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\gt\) を使って、「一項ずらす」線形写像 \(f\) の表現行列を求めてみることにします。

漸化式 \(a_{n+2}=2a_{n+1} - a_n\) を使って \(\boldsymbol{a}\)\(\boldsymbol{b}\) の第三項までを明示してみると、

\[ \boldsymbol{a}=(1,0,-1,\ldots) \]

となり、

\[ \boldsymbol{b}=(0,1,2,\ldots) \]

となることに注意しましょう。

\(f\) は「一項ずらす」写像なので

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{a})&=(0,-1,\ldots)\\[6pt] &=0(1,0,\ldots) - 1(0,1,\ldots)\\[6pt] &=-\boldsymbol{b}\\[6pt] f(\boldsymbol{b})&=(1,2,\ldots)\\[6pt] &=1(1,0,\ldots) +2(0,1,\ldots)\\[6pt] &=\boldsymbol{a}+2\boldsymbol{b} \end{align} \]

となることがわかります。これより

\[ \left(f(\boldsymbol{a}),f(\boldsymbol{b})\right) = \left(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\right) \left( \begin{array}{cc} 0 & 1\\ -1 & 2 \end{array} \right) \]

と書くことができるので、\(f\) の基底 \(\lt\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\gt\) に関する表現行列は

\[ \left( \begin{array}{cc} 0 & 1\\ -1 & 2 \end{array} \right) \]

であることがわかりました。

実数の数ベクトルの空間の間の線形写像について考えてみます。 \(U=\mathbb{R}^3,V=\mathbb{R}^2\) とし、\(f:U\to V\) を次のような \(U\) から \(V\) への線形写像とします。

\[ \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ z \end{array} \right) \stackrel{f}{\mapsto} \left( \begin{array}{c} -21x-47y+41z\\ 8x+20y-13z\\ \end{array} \right) \tag{3} \]

この \(f\)

\[ \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ z \end{array} \right) \stackrel{f}{\mapsto} \left( \begin{array}{ccc} -21 & -47 & 41\\ 8 & 20 & -13\\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ z \end{array} \right)\tag{4} \]

のように、数ベクトルに左から行列をかけるという形であらわすことができる写像であるということからも、線形写像であることは簡単にわかります。

ところで、一般に \(n\) 次元の数ベクトル空間には自然に考えることのできる基底として

\[ \lt \boldsymbol{e}_1,\ldots,\boldsymbol{e}_n\gt \]

があります。ただし、ここで、\(\boldsymbol{e}_1,\ldots,\boldsymbol{e}_n\)

\[ \boldsymbol{e}_1=\left(\begin{array}{c}1\\0\\ \vdots\\0\end{array}\right), \boldsymbol{e}_2=\left(\begin{array}{c}0\\1\\ \vdots\\0\end{array}\right), \ldots, \boldsymbol{e}_n=\left(\begin{array}{c}0\\0\\ \vdots\\1\end{array}\right) \]

という数ベクトルです。これを数ベクトル空間の自然基底と呼ぶことにします。そしてもちろん、これ以外にも様々な基底を考えることができます。そこで、以下のように2つの場合について考えてみることにします。

  1. \(U=\mathbb{R}^3,V=\mathbb{R}^2\) の自然基底を使って \(f\) の表現行列を考える。

  2. \(U=\mathbb{R}^3\) の一般的な基底として例えば \(\lt\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3\gt\)、 ただしここで

    \[ \boldsymbol{u}_1=\left(\begin{array}{c}1\\2\\3\end{array} \right), \boldsymbol{u}_2=\left(\begin{array}{c}2\\1\\2\end{array} \right), \boldsymbol{u}_3=\left(\begin{array}{c}2\\0\\1\end{array} \right) \]

    を使い、また \(V=\mathbb{R}^2\) の一般的な基底として例えば \(\lt\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\gt\)、ただしここで

    \[ \boldsymbol{v}_1=\left(\begin{array}{c}2\\5\end{array} \right), \boldsymbol{v}_2=\left(\begin{array}{c}-1\\3\end{array} \right) \]

    を使って \(f\) の表現行列を考える。(念の為、\(\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3\)\(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\) がそれぞれ線形独立であることを確認してみてください。)

それではそれぞれの場合について \(f\) の表現行列を求めてみることにしましょう。

1.の場合

これは \(U=\mathbb{R}^3\)\(V=\mathbb{R}^2\) の自然基底を用いる場合の話ですが、ここでは \(U\) の自然基底を \(\lt \boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\boldsymbol{e}_3\gt\)\(V\) の自然基底を \(\lt \boldsymbol{g}_1,\boldsymbol{g}_2\gt\) と区別して書くことにします。もちろんここで、

\[ \boldsymbol{e}_1=\left(\begin{array}{c}1\\0\\0\\ \end{array}\right), \boldsymbol{e}_2=\left(\begin{array}{c}0\\1\\0\\ \end{array}\right), \boldsymbol{e}_3=\left(\begin{array}{c}0\\0\\1\\ \end{array}\right) \]

\[ \boldsymbol{g}_1=\left(\begin{array}{c}1\\0\\ \end{array}\right), \boldsymbol{g}_2=\left(\begin{array}{c}0\\1\\ \end{array}\right) \]

です。

\((3)\) または \((4)\) 式より、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{e}_1) &=\left( \begin{array}{c} 21\\ 8 \end{array} \right)=21\boldsymbol{g}_1+8\boldsymbol{g}_2,\\[6pt] f(\boldsymbol{e}_2) &=\left( \begin{array}{c} 47\\ 20 \end{array} \right)=-47\boldsymbol{g}_1+20\boldsymbol{g}_2,\\[6pt] f(\boldsymbol{e}_3) &=\left( \begin{array}{c} 41\\ -13 \end{array} \right)=41\boldsymbol{g}_1-13\boldsymbol{g}_2 \end{align} \]

となることがわかります。ですから、

\[ \left(f(\boldsymbol{e}_1),f(\boldsymbol{e}_2),f(\boldsymbol{e}_3) \right) = \left(\boldsymbol{g}_1,\boldsymbol{g}_2\right) \left( \begin{array}{ccc} 21 & -47 & 41\\ 8 & 20 & -13 \end{array} \right) \]

と書くことができるので、\(f\) の自然基底に関する表現行列は

\[ \left( \begin{array}{ccc} 21 & -47 & 41\\ 8 & 20 & -13 \end{array} \right) \]

であることがわかります。(実は、ちょっと考えてみると当然のことなのですが、これは \((4)\) 式の右辺に現れている行列そのものです。)

2.の場合

これは \(U=\mathbb{R}^3\) の基底として \(\lt\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3\gt\)、 ただしここで

\[ \boldsymbol{u}_1=\left(\begin{array}{c}1\\2\\3\end{array} \right), \boldsymbol{u}_2=\left(\begin{array}{c}2\\1\\2\end{array} \right), \boldsymbol{u}_3=\left(\begin{array}{c}2\\0\\1\end{array} \right) \]

を使い、\(V=\mathbb{R}^2\) の基底として \(\lt\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\gt\)、ただしここで

\[ \boldsymbol{v}_1=\left(\begin{array}{c}2\\5\end{array} \right), \boldsymbol{v}_2=\left(\begin{array}{c}-1\\3\end{array} \right) \]

を使う場合の話です。

\((3)\) または \((4)\) 式より、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{u}_1) &=\left( \begin{array}{c} 8\\ 9 \end{array} \right),\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_2) &=\left( \begin{array}{c} -7\\ 10 \end{array} \right),\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_3) &=\left( \begin{array}{c} -1\\ 3 \end{array} \right) \end{align}\tag{5} \]

となることまではわかりますが、さらに、

\[ \left( \begin{array}{c} 8\\ 9 \end{array} \right), \left( \begin{array}{c} -7\\ 10 \end{array} \right), \left( \begin{array}{c} -1\\ 3 \end{array} \right) \]

をそれぞれ \(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\) の一次結合としてあらわす必要があります。そのためには、この場合、例えば6個の未知数 \(x,y,z,w,s,t\) などを用意して

\[ \begin{align} \left( \begin{array}{c} 8\\ 9 \end{array} \right) &=x\boldsymbol{v}_1 + y \boldsymbol{v}_2,\\[6pt] \left( \begin{array}{c} -7\\ 10 \end{array} \right) &=z\boldsymbol{v}_1 + w \boldsymbol{v}_2,\\[6pt] \left( \begin{array}{c} -1\\ 3 \end{array} \right) &= s\boldsymbol{v}_1 + t \boldsymbol{v}_2\\ \end{align} \tag{6} \]

という連立方程式を解く必要があります。いま、

\[ \boldsymbol{v}_1=\left(\begin{array}{c}2\\5\end{array} \right), \boldsymbol{v}_2=\left(\begin{array}{c}-1\\3\end{array} \right) \]

なのですから、\((6)\) 式は

\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 8=2x-y\\ 9=5x+3y \end{array} \right. \end{eqnarray} \]

\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} -7=2z-w\\ 10=5z+3w \end{array} \right. \end{eqnarray} \]

\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} -1=2s-t\\ 3=5s+3t \end{array} \right. \end{eqnarray} \]

と書くこともできます。これを解くと、

\[ x=3,y=-2,z=-1,w=5,s=0,t=1 \]

であることがわかります。よって、あらためてここで \((5)\) 式と \((6)\) 式を振り返れば、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{u}_1) &=\left( \begin{array}{c} 8\\ 9 \end{array} \right)=3\boldsymbol{v}_1-2\boldsymbol{v}_2,\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_2) &=\left( \begin{array}{c} -7\\ 10 \end{array} \right)=-\boldsymbol{v}_1+5\boldsymbol{v}_2,\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_3) &=\left( \begin{array}{c} -1\\ 3 \end{array} \right)=\boldsymbol{v}_2 \end{align}\tag{7} \]

であることがわかり、これはさらに、

\[ \left(f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),f(\boldsymbol{u}_3)\right) = \left(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\right) \left( \begin{array}{ccc} 3 & -1 & 0\\ -2 & 5 & 1 \end{array} \right) \]

と書くことができます。これより、\(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3 \gt,\,\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\gt\) に関する \(f\) の表現行列は

\[ \left( \begin{array}{ccc} 3 & -1 & 0\\ -2 & 5 & 1 \end{array} \right) \]

であることがわかります。

補足

数ベクトルは数を縦に並べて \(\left(\begin{array}{cc}x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\) のように表されるものですが、\(x_1,x_2,\ldots,x_n\) は自然基底 \(\lt \boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\ldots,\boldsymbol{e}_n\gt\) を用いたときの座標になるわけです。

そして、\(n\) 次の数ベクトルの空間から \(m\) 次の数ベクトルの空間への線形写像 \(f\)\((m,n)\) 型の行列 \(A\) を使って

\[ \left(\begin{array}{cc}y_1\\ y_2\\ \vdots\\ y_m\end{array}\right) =A \left(\begin{array}{cc}x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right) \] のようにあらわす場合、\(A\) は自然基底に関する \(f\) の表現行列になっているわけです。

自然基底ではない基底に関する \(f\) の表現行列は \(A\) とは異なるものになります。どのような行列になるのかということは、基底の変換行列と呼ばれるものを使って計算することができます。このことについてはこの先いつか説明される予定です。

座標との同一視のもとで線形写像を考える

2つの \(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(U\)\(V\) および \(U\) から \(V\) への線形写像 \(f\) に対して、\(U\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots, \boldsymbol{u}_n \gt\)\(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots, \boldsymbol{v}_m\gt\) を用意して \(U\)\(V\) のベクトルを数ベクトルと同一視して(座標で扱うことにして)みると、 \(f\) は数ベクトル空間の間の写像としてどのような行列であらわされるのかということを考えているのでした。

そして、前の節で、\(f\) の表現行列というものを定義しました。これは、それぞれ \(U\)\(V\) の基底を定めることにより行列が1つ決まるようなものでした。

そこで、これから、「同一視したもので考えた \(f\)」と「\(f\) の表現行列」の関係を調べてみることにします。

\(U\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\ldots, \boldsymbol{u}_n \gt\)\(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}_1,\ldots, \boldsymbol{v}_m\gt\) に関する \(f\) の表現行列

\[ \left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array}\right) \]

\((1)\) 式で見たように、次のように定まっているとします。

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{u}_1)&=a_{11}\boldsymbol{v}_1 + a_{21}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{m1}\boldsymbol{v}_m\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_2)&=a_{12}\boldsymbol{v}_1 + a_{22}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{m2}\boldsymbol{v}_m\\[6pt] &\qquad\qquad\cdots\cdots\cdots\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_n)&=a_{1n}\boldsymbol{v}_1 + a_{2n}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{mn}\boldsymbol{v}_m\\ \end{align} \]

(念の為 \((2)\) 式も確認しておいてください。)

このとき、\(U\) の勝手なベクトル \(\boldsymbol{x}=x_1\boldsymbol{u}_1+x_2\boldsymbol{u}_2+\cdots+x_n\boldsymbol{u}_n\)\(f\)\(V\) のどんなベクトルに対応させられるのか計算してみると、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{x})&=f(x_1\boldsymbol{u}_1+x_2\boldsymbol{u}_2+\cdots+x_n\boldsymbol{u}_n)\\[8pt] &=x_1f(\boldsymbol{u}_1)+x_2f(\boldsymbol{u}_2)+\cdots+x_nf(\boldsymbol{u}_n)\\[8pt] &=x_1(a_{11}\boldsymbol{v}_1 + a_{21}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{m1}\boldsymbol{v}_m)\\ &\quad +x_2(a_{12}\boldsymbol{v}_1 + a_{22}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{m2}\boldsymbol{v}_m)\\ &\qquad\qquad\qquad \cdots\cdots\cdots\\ &\quad\quad +x_n(a_{1n}\boldsymbol{v}_1 + a_{2n}\boldsymbol{v}_2 + \cdots + a_{mn}\boldsymbol{v}_m)\\[8pt] &=(a_{11}x_1+a_{12}x_2 + \cdots + a_{1n}x_n)\boldsymbol{v}_1\\ &\quad+(a_{21}x_1+a_{22}x_2 + \cdots + a_{2n}x_n)\boldsymbol{v}_2\\ &\qquad\qquad\qquad \cdots\cdots\cdots\\ & \quad\quad +(a_{m1}x_1+a_{m2}x_2 + \cdots + a_{mn}x_m)\boldsymbol{v}_m\\ \end{align} \]

となります。これは、\(V\) のベクトル \(f(\boldsymbol{x})\)\(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m \gt\) であらわした式です。 この式を見て、ベクトルを基底による同一視により(つまり座標で)扱うことにすると、\(f\)\(\left(\begin{array}{c}x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\)

\[ \left( \begin{array}{c} a_{11}x_1+a_{12}x_2 + \cdots + a_{1n}x_n\\ a_{21}x_1+a_{22}x_2 + \cdots + a_{2n}x_n\\ \vdots\\ a_{m1}x_1+a_{m2}x_2 + \cdots + a_{mn}x_n\\ \end{array} \right) \]

に対応させていることがわかります。これは行列の積を思い出せば、

\[\left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\]

に対応させているということになります。

以上のことを次の定理としてまとめておきます。

定理

\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元線形空間 \(U\)\(\mathbb{K}\) 上の \(m\) 次元線形空間 \(V\)、さらに \(U\) から \(V\) への線形写像 \(f\) があるとします。 また、\(U\)\(V\) の基底 \(\lt\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) をそれぞれ選んでおきます。そして、選ばれた基底に関する \(f\) の表現行列を \(A\) とします。

選ばれた基底により、\(U\)\(V\) はそれぞれ数ベクトルの空間 \(\mathbb{K}^n\)\(\mathbb{K}^m\) と同一視することができ、 \(f\)\(\mathbb{K}^n\) から \(\mathbb{K}^m\) への線形写像と思うことができますが、この同一視のもとでは、\(f\)\(\mathbb{K}^n\) の数ベクトルに \(f\) の表現行列 \(A\) を左からかけるという線形写像になります。つまり、次の図の上の段の写像と下の段の写像を同一視することができます。

\[ \require{amscd} \begin{CD} U \ni \boldsymbol{x} \qquad @>{f}>> \qquad f(\boldsymbol{x}) \in V\\ @V{\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt}VV {\large\circlearrowleft} @VV{\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m \gt}V\\ \mathbb{K}^n\ni\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\qquad @>>{A}> \qquad A\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\in\mathbb{K}^m \end{CD} \]

\(U\)\(\mathbb{K}\) 上の \(3\) 次元線形空間、\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の \(2\) 次元線形空間とします。

また、 \[ f:U \to V \]\(U\) から \(V\) への線形写像とします。

また、\(U\)\(V\) の基底をそれぞれ1つ選び、\(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3 \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2 \gt\) とします。 そしてこのとき、

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{u}_1 )&=5\boldsymbol{v}_1-3\boldsymbol{v}_2 \\[6pt] f(\boldsymbol{u}_2 )&=\boldsymbol{v}_1+2\boldsymbol{v}_2\\[6pt] f(\boldsymbol{u}_3 )&=-\boldsymbol{v}_1+2\boldsymbol{v}_2 \end{align} \]

となっているとします。これは

\[ \left(f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),f(\boldsymbol{u}_3) \right) = \left(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\right) \left(\begin{array}{rrr} 5 & 1 & -1 \\ -3 & 2 & 2 \\ \end{array}\right) \]

とあらわすことができるので、\(f\)\(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3 \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2 \gt\) に関する表現行列は

\[ \left(\begin{array}{rrr} 5 & 1 & -1 \\ -3 & 2 & 2 \\ \end{array}\right) \]

です。ということは、\(U,V\) のベクトルをそれぞれ \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\boldsymbol{u}_3 \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2 \gt\) に関する座標で扱う場合、\(f\)\(\left(\begin{array}{c}x_1\\ x_2\\ x_3\end{array}\right)\)\(\left(\begin{array}{rrr} 5 & 1 & -1 \\ -3 & 2 & 2 \\ \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\ x_2\\ x_3\end{array}\right)\) に対応させる線形写像です。

まとめ

数ベクトルの空間に限らず一般の線形空間でも、基底を選んでベクトルを座標で扱うことにすれば、2つの線形空間の間の線形写像も行列で扱うことができるはずです。

線形空間 \(U\) から線形空間 \(V\) への線形写像 \(f\) に対して、\(U\) の基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt\) を構成しているベクトル \(\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n\)\(f\) によりそれぞれ \(V\) のどんなベクトルに対応するのかということを考え、それぞれを \(V\) の基底 \(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m \gt\) であらわすことを考えます。その結果は行列の積の書き方を流用して、

\[ \left(f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),\ldots,f(\boldsymbol{u}_n) \right) = \left(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m\right) \left(\begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn } \end{array}\right) \]

のようにあらわすことができます。このようにして決まる行列 \(\left(a_{ij}\right)\) を 基底 \(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m \gt\) に関する \(f\) の表現行列といいます。

\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元線形空間 \(U\) から \(\mathbb{K}\) 上の \(m\) 次元線形空間 \(V\) への線形写像 \(f\) があるとします。また、\(U\)\(V\) の基底 \(\lt\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt\)\(\lt \boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) を選び、選ばれた基底に関する \(f\) の表現行列を \(A\) とします。選ばれた基底により、\(U\)\(V\) はそれぞれ数ベクトルの空間 \(\mathbb{K}^n\)\(\mathbb{K}^m\) と同一視することができ、 \(f\)\(\mathbb{K}^n\) から \(\mathbb{K}^m\) への線形写像と思うことができますが、この同一視のもとでは、\(f\)\(\mathbb{K}^n\) の数ベクトルに \(f\) の表現行列 \(A\) を左からかけるという線形写像になります。

線形写像と線形変換 線形写像の行列による表現(2)